日本文化を探る
~正座~
改まった席ですることが多い正座。畳で生活をする日本人の伝統的なスタイルのひとつですが、日常生活で正座をよくするという人がどのくらいいるのでしょうか。筆者の場合、1日の大半をパソコンの前で椅子の上で過ごしているのですが、このお題を書くにあたり、生活の中で正座をする時があるのかどうか、ちょっと気にしてみたところ、愛犬にご飯をあげるときに無意識に正座をしていました(笑)。我が家の“大切なお犬様”の前ですので仕方がありませんね。
読んで字のごとく、正しい座り方とされている正座ですが、実際のところ苦手な人がほとんどですよね。足を折り曲げることにより血流が滞り、上半身の重みがさらに足を圧迫。しばらくするとシュワシュワッとした感覚に足が包まれ、それを解消しようとモジモジ。落ち着きません。やっと終わったと思い、立とうとするとすってんコロリン。恥ずかしい思いをすることに…。一体、そんな座り方を誰が正しい座り方として推奨したのか。そこで正座の歴史や由来について調べてみました。
古来日本人はいろんな座り方をしていた
日本で「正座」が定着したのは、ほんの100年ほど前のことだそうです。古来日本では、時代や身分、座る場所によってあぐらや立て膝、横座りなどいろいろな座り方をしていて、それぞれが正しい座り方だったそうです。膝をそろえて腰をおろす正座スタイルは、「かしこまる」と呼ばれ、神前や仏前などの儀式的なシーン、また家臣が主君に対してかしこまる場のみとる姿勢だったといいます。
それ以外は、女性だろうと、茶人だろうと、武士だろうと、いまでは行儀の悪い座り方とされる、あぐらや膝を立てて座ることが普通だった。かの有名な茶人・千利休もあぐらをかいてお茶を点てていたと言われています。
それ以外は、女性だろうと、茶人だろうと、武士だろうと、いまでは行儀の悪い座り方とされる、あぐらや膝を立てて座ることが普通だった。かの有名な茶人・千利休もあぐらをかいてお茶を点てていたと言われています。
正しい座り方としていつ普及したのか
一般的に「正座」がいつごろ普及したかについては、はっきりわからないそうですが、いろんなところを調べてみると、入澤達吉という医学博士の論文「日本人の座り方に就いて」に書かれている“元禄~享保の時代に広まった”というのが有力とされているようです。五代将軍家綱から八代将軍吉宗の時代ですね。
また、第三代将軍家光が臣下たちに正座を推奨したことが始まりだともいいます。徳川幕府安泰のために参勤交代や天下普請(江戸幕府が地方の大名たちに行わせた土木作業)などで、謀反を起こさせないための政策を行っていたことは、みなさんの知るところですが、正座もそのひとつだったようです。
参勤交代や天下普請も諸大名にとっては、ものすごい負担になることですし、少なからず江戸幕府に不満を持っていた大名もいたはず。「今度会った時、絶対襲ってやる!」なんて思っていたかもしれません。そんなことをさせないために家光が、正座を臣下に命じたといいます。確かに、襲おうとしても足が痺れて立てず、それこそ、すってんコロリンがオチです。「正座」には、襲わせない。そんな意味もあったんですね。ただ、このころは「正座」ではなく「危坐(危座)」といい、罪人に罪を白状させる座り方だったそうです。どうりで痛いわけです。
また、第三代将軍家光が臣下たちに正座を推奨したことが始まりだともいいます。徳川幕府安泰のために参勤交代や天下普請(江戸幕府が地方の大名たちに行わせた土木作業)などで、謀反を起こさせないための政策を行っていたことは、みなさんの知るところですが、正座もそのひとつだったようです。
参勤交代や天下普請も諸大名にとっては、ものすごい負担になることですし、少なからず江戸幕府に不満を持っていた大名もいたはず。「今度会った時、絶対襲ってやる!」なんて思っていたかもしれません。そんなことをさせないために家光が、正座を臣下に命じたといいます。確かに、襲おうとしても足が痺れて立てず、それこそ、すってんコロリンがオチです。「正座」には、襲わせない。そんな意味もあったんですね。ただ、このころは「正座」ではなく「危坐(危座)」といい、罪人に罪を白状させる座り方だったそうです。どうりで痛いわけです。
正しい座り方として教科書に!
さて、鎖国政策をとっていた日本に、明治維新以降、外国の文化が入ってくるようになります。そこで明治政府が、学校という教育の場を通して、日本人としてのアイデンティティを芽生えさせようと、「危坐(危座)」を「正座」と改め、正しい座り方として教科書に載せたそうです。士農工商という身分制度を廃止し、みな平等にするという証でもあったとも。さらに、この時期に起こった二つのことが「正座」の普及にひと役かっているそうです。一つは、明治時代まで柄などに規制が入っていた畳が、明治維新後に緩和され、広く一般社会に広まったこと。そして、二つ目は、「脚気」の解明。脚気は明治時代まで原因がわからず、日本独特の風土病として恐れられていたそうです。また、その症状は、正座をしたときの痺れに似ていたこともあり、正座の習慣が原因ではないかといわれていたのだとか。しかし、原因は、白米を中心とした食生活によるビタミンB1不足によるものだとわかり、治療や予防法が確立され、正座の習慣が原因ではないということが明らかになったこと。このように、畳の普及と脚気の解明のおかげもあり、学校という教育の場を通して、大正、昭和と広く一般家庭にも浸透していったといいます。
現在では、正座をする機会も少なく「正座しなさい」と言われるのは、だいたいが怒られるとき。久しく筆者もそんなことは言われていなかったのですが、つい最近、近所の保育園児に言われてしまいました。何も悪いことしていないのに。きっと、先生とか親に言われたんでしょうね。とんだとばっちりです。
ながながと言葉を連ねてしまいましたが、要するに明治維新前までは「正座」という言葉すらなかったし、一般的な座り方でもなかたということです。「正座」の歴史は浅いのです。改まった席で「足を崩していただいても結構です」と言われると、躊躇することもしばしばですが、経緯を知ると足を崩すのも気がラクになりますね。
ながながと言葉を連ねてしまいましたが、要するに明治維新前までは「正座」という言葉すらなかったし、一般的な座り方でもなかたということです。「正座」の歴史は浅いのです。改まった席で「足を崩していただいても結構です」と言われると、躊躇することもしばしばですが、経緯を知ると足を崩すのも気がラクになりますね。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA
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