何げない日常に潜む日本文化 ~除夜の鐘編~

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~除夜の鐘編~

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12月31日の恒例行事といえば「除夜の鐘」。一年の最後の日・大晦日は、古いものを捨てて新しいものに移る日という意味で「除日(じょじつ)」と言われ、その除日の夜につく鐘なので「除夜の鐘」と言います。「除夜の鐘」とは、説明をするまでもなく大晦日の夜(=除夜)に寺院の梵鐘を108回つくことですが、なぜ大晦日の夜(=除夜)に鐘をつくのか、そしてなぜ108回なのか、どのような歴史があるのかなどについてご存知でしょうか。

-なぜ大晦日の夜に鐘を打つのでしょう

大晦日とは、12月31日を指す言葉ですが、旧暦を使っていたころは月の最後の日を「晦日(みそか)」と言っていたそうです。30歳になるとまだ若いのに「もう、三十路(みそじ)です」なんていうふうに使いますよね。その「みそ」は三十という意味ですが、12月31日は一年の最後の日となるので「晦日」に「大」をつけて「大晦日」と呼ばれるようになりました。また、「大晦日」は先に述べたように「除日」とも言います。「除日」と「大晦日」は12月31日を表す言葉であり、「除夜」は12月31日の夜を指す言葉というわけです。
では、なぜ大晦日の夜に梵鐘をつくのでしょうか。それについては、中国由来の陰陽道から生まれた概念で、鬼門封じではないかと言われています。鬼門とは鬼が入りやすい方角で、いわゆる艮(うしとら。丑寅とも書きます)の方角のことですが、時刻や月を表すこともあります。怖い話をする時に「草木も眠る、丑三つ時」といいますよね。丑とは午前1時から3時のことを指し、この2時間を4当分すると丑三つ時は、午前2時から午前2時30分となります。寅は午前3時から5時を指すので、丑寅は方向でいうと北東に当たります。また、これを月に当てはめると12月が丑、1月が寅になるため、時空の中でも12月31から1月1日にかけては鬼門に当てはまるという理由から、大晦日の夜に鬼が入り込まないように梵鐘をつくというわけです。

-なぜ108回打つのか

一般的には人の心の中にある煩悩を祓うために梵鐘をつくと言われ、108回とされています。仏教の教義的には、人には108つの煩悩があることからその数だけ梵鐘つき、煩悩を追い払うというわけです。108つの煩悩とは人間の6つの感覚器官(眼・耳・鼻・舌・身・意)があり、これを六根(ろっこん)と呼びます。それぞれに「好き」「嫌い」「どっちでもない」という3種があるそうで、6×3=18。また、その六根に対し「きれい」「汚い」の2種があるそうで18×2=36。さらに現在・過去・未来と時間が加わって、36×3=108というわけです。
それ以外にも、四苦八苦が由来という説もあるそうで、しく(4×9)とはっく(8×9)を足すと108。さらに、1年(12か月)、24節気、72候(24節気を初候、次候、末候に分けたもの)を足して108という説もあるそうです。108回と述べましたが、寺院によってはそれ以上つくこともあるそうです。

-「除夜の鐘」の起源とは

その起源は中国の寺院で行われていた風習だと言われています。仏教発祥のインドでは梵鐘の起源と結びつくものがないそうで、梵鐘を仏具として使用していた中国で生まれた風習ではないかという説が有力だそうです。
中国の寺院では、毎月月末の夜に108回、鐘をついていたそうですが、宋の時代になってから大晦日だけになったそうです。鎌倉時代の末に中国から禅僧が来日し、その風習が日本の禅宗の寺院に伝わったと言います。室町時代になると大晦日に梵鐘をつく風習が徐々に広まり、江戸時代には現在のように多くの寺院でつかれるようになったそうです。

除夜の鐘をつくタイミングもあり、正式には107回までを旧年中に、最後のひとつきは新年になってからつくそうです。筆者は12月31日中に108回ついてしまうのだと思っていたのですが、そうではないのですね。
鐘や鈴の音には、浄化作用があると言われていますし、旧年にあったいろんな出来事や思いを鐘の音と共に自身の心の中から放出し、新しい気持ちで新年を迎えるというわけです。

筆者は、まあまあな田舎に住んでいますので、毎年、過ぎ行く年をしみじみ感じながら心地よい音量で除夜の鐘を聞いていますので、うるさいと感じたことがありませんが、ここ数年、除夜の鐘がうるさいという苦情により鐘をつくこと自体をやめてしまったり、除日の鐘と言って昼間に梵鐘をつく寺院があるそうです。
「1年に1度のことだから」「お寺があるとわかって引っ越してきたのでは」という意見もありますが、寺院と隣接していると、我慢しづらい「騒音」以外の何ものでもないと感じる方もいるということは理解できます。毎年、その寺院の鐘をつくことを楽しみにしている人には申し訳ないのですが、住宅事情を考えると仕方がないという言葉は好きではないですが、仕方がないことなのかもしれません。古くからある伝統行事がなくなってしまうのは、寂しい気がするという声もあります。そのような声を聞くと日本人にとって「除夜の鐘」は宗教や信仰という枠を超え、新年を迎えるための大切な存在になっているんだなということにも気付かされます。
今年の大晦日の「ゆく年くる年」(NHK)は、世界遺産・薬師寺(奈良市)より中継され、国の重要文化財に指定されている奈良時代の梵鐘が除夜の鐘として使われるそうですし、比叡山延暦寺では、令和初の除夜の鐘から初日の出までの年越しを生でインターネット配信するそうです。筆者はどちらの除夜の鐘も聞きたし、見たいと思います。また、煩悩を増やしてしまいましたが、テレビやインターネットで除夜の鐘を好みの音量でゆっくりと楽しむのもありではないでしょうか。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA