何げない日常に潜む日本の文化 ~ほうき編~

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何げない日常に潜む日本の文化
~ほうき編~

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年末が近づくにつれ、「そろそろ大掃除をしなくては」と思う方も多いのではないでしょうか。部屋中を勝手に動き回り綺麗にしてくれるステキな掃除道具がありますが、掃除のお供として欠かせない道具と言えば「ほうき」。掃除機の陰に身を潜めていた「ほうき」ですが、掃除機では届かない隅のホコリ取りに重宝するうえ、音が小さいので夜間の掃除に便利、さらには電源を使わないので経済的だと見直され、最近、需要が高まっているそうです。「ほうき」は日本特有のものだそうで、もともとは掃除をする道具ではなかったようです。その語源とは? いつごろから掃除道具として使われるようになったのでしょうか。

-「ほうき」の語源と意味

「ほうき」は「箒」と書き、古くは「ははき」と言ったそうです。日本最古の歴史書『古事記』や『万葉集』にも「帚持(ははきもち)」「玉箒(たまははき・たまばはき)」という名で登場します。
『古事記』では、葦原中国(あしはらなかつくに)の平定に乗り出した天照大神が第二の使者として派遣した天若日子(あめのわかひこ)が、大国主神に国譲りを迫るために地上に降り立ちますが、大国主神の娘・下照比売(したてるひめ)と恋に落ち、結婚をしてしまいます。なかなか戻ってこない天若日子にしびれをきらした天照大神が、キジの鳴女(なきめ)を送り込みますが、天若日子はそのキジを射殺。それを知った天照大神が「もし天若日子に邪心があれば、当たれ」とその矢を突き返したところ、天若日子の胸を貫き死んでしまいます。「帚持」は、この天若日子のお葬式の場面で「鷺(さぎ)を帚持と為」(鷺がほうきを持つ役目として)と出てきます。

また、『万葉集』では“初春の 初子(はつね)の今日(けふ)の玉箒 手に取るからに 揺らぐ玉の緒”~大伴家持『万葉集 巻二十』~とあり、初春の今日、玉飾りをしたほうきを手に取ると玉飾りが揺れて、よろこばしく音をたてるという内容の歌に「玉箒」があります。758(天平宝字2)年正月3日の初子の儀式に、孝謙天皇が侍従・竪子・王臣たちを召して、内裏の東屋の垣の下に伺候させ、「玉箒」をさずけて宴を催した際の大伴家持の歌です。「玉箒」は本来養蚕の床を掃く道具だそうですが、ここで詠まれている「玉箒」は、儀式用のものだそうです。「玉箒」を揺らすと玉(魂)が活発になり邪気を払うと考えられていたと言います。
正倉院には、まさに758(天平宝字2)年正月初子の日の儀式で用いた「子日目利箒(ねのひのめとぎほうき)」という「ほうき」が残っています。古代中国の制にならい、蚕室を掃き清め蚕神を祀ったそうです。古代では、“はらいきよめる”ということに使用され、掃除道具というより祭祀の道具としての意味が強かったようですね。

-実は「ほうき」は縁起物

また「ほうき」には、箒神(ははきがみ)という神様が宿るとされ、妊婦のおなかをなでたり、産室に逆さに立てておくと安産になり、また、玄関に飾ると幸せをかき入れるとも言われています。「掃き出す」「払う」という行いが、出産や邪気払いに結び付いたそうです。ちなみに「ほうき」の相棒、「ちりとり」の原型で「はりみ」も「実が入る」ということを連想するため、縁起物として昔から親しまれています。
そういえば、長居するお客を早く帰すために、「ほうき」を逆さに立てておく、おまじないのようなものがありますね。これも「掃き出す」「払う」という意味からでしょうか。筆者は小学生のころ、玄関先にほうきを逆さに立て、本当に長居するお客が早く帰るのか実験をしたことがあります。実家は客商売を営んでいたということもあり、母親に怒られ、残念ながら実験は失敗に終わっています。

-「ほうき」が掃除道具となったのは平安時代

儀式的な要素が強かった「ほうき」も実用的な掃除道具として歴史上に登場するのは、平安時代。年神様を迎えるために宮中で年末に“すす払い”の道具として使われたのが掃除道具としてのデビューだそうです。
また、年末の大掃除もこれに由来するとか。その後、室町時代には、ほうき売りが登場し、生活に欠かせない掃除道具となっていったそうです。

掃除道具の一つとして何げに使っている「ほうき」が、昔はとても神聖な存在だったんですね。さらに「掃く」という行為は、神聖、かつ精神面を高める行為とされています。神社や寺院が竹ぼうきで美しく掃き清められているのも理解できるのではないでしょうか。

筆者は、毎朝4時に愛犬に起こされてしまうので、彼女(愛犬は女の子です)のお世話が終わると、玄関周りを「ほうき」で掃くことが日課となっています。「掃く」という行為は、邪気を払うと言いますから、玄関周りが綺麗になると、確かに心もスッキリします。
昔から神聖なものとして扱われてきた「ほうき」をまたぐと罰が当たると言われているので気を付けましょう。ちなみに筆者は「酒は憂いの玉箒」ということわざが大好きです。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA