日本文化を探る
山菜~山の恵みを食すということ~
とりわけ春になると「春の皿には苦味を盛れ」ということわざを知ってかしらでか、無性に山菜が食べたくなります。タラの芽やコゴミの天ぷら、ウドの和物、ワラビのお浸し、根曲がり竹の素焼き…。ビールや日本酒と一緒にいただくと最高ですね。
山菜とは、一般的に野山に自生し食用になる植物を指しますが、里山や水辺、海岸などに自生しているものも山菜と呼ぶことがあるそうです。季節ごとに代表的な山菜を挙げると、春は、ギョウジャニンニク・ウド・タラの芽・フキノトウ・ワラビ・ワサビ・セリ・タケノコ・ツクシ・ノビル・イタドリ・コシアブラ・コゴミ・ゼンマイ。夏は、シオデ・シソ・ドクダミ・ヤマモモ。秋は、アケビ(果実)・銀杏・山椒。冬は、ナズナ・百合根・クコの実などがあり、一年を通して山菜は食べることができますが、山菜=春というイメージがあるのは、圧倒的に春に食べられる種類が多いからということでしょうか。ちなみに栽培したものを野菜、山で採れるものを山菜というようになったのは江戸時代からだそうです。
縄文人や万葉人も食べていた!
縄文時代には、すでに食べていたと考えられていて、遺跡からもヤマモモ・山椒・ノビルなどの山菜を含め約40種の植物が発見されているそうです。タラの芽やワラビなどは腐りやすく残らないので、実際にはもっと多くの植物を食べていたといわれています。縄文時代の食生活は、確かに狩猟・採取・漁労の生活とされていますし、ドングリのアクを抜く方法も知っていたそうですから、山菜のアク抜きなんてお手のものだったのかもしれませんね。
万葉集にも数々の山菜が登場します。
○石(いわ)ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出ずる春に なりにけるかも~志貴皇子~
※岩の上にほとばしる滝のほとりに、わらびが芽を出す春になったことだな
○明日よりは 春菜つまむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ~山部赤人~
※明日から若菜を摘もうと決めていた野原に、昨日も今日も雪がしきりに降っている
○醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛願ふ われにな見えそ 水葱の羹(あつもの)~長忌寸意吉麻呂~
※醤と酢に蒜をあえて、これに鯛があったら最高なのになぁと思っている私に、ミズアオイ(水辺の野草)のスープを見せないでくれ
など、ワラビや蒜(=ニラやニンニク、ノビル、アサツキのような香りの強い野草の総称)のほかにも、セリやカタクリ、ヨモギ、ヤマイモなども野山の植物が登場し、身近なものだったことがわかります。それにしても、酢醤油にニラ、鯛、想像するだけでもおいしそうです。
○石(いわ)ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出ずる春に なりにけるかも~志貴皇子~
※岩の上にほとばしる滝のほとりに、わらびが芽を出す春になったことだな
○明日よりは 春菜つまむと 標めし野に 昨日も今日も 雪は降りつつ~山部赤人~
※明日から若菜を摘もうと決めていた野原に、昨日も今日も雪がしきりに降っている
○醤酢(ひしほす)に 蒜(ひる)搗(つ)き合(か)てて 鯛願ふ われにな見えそ 水葱の羹(あつもの)~長忌寸意吉麻呂~
※醤と酢に蒜をあえて、これに鯛があったら最高なのになぁと思っている私に、ミズアオイ(水辺の野草)のスープを見せないでくれ
など、ワラビや蒜(=ニラやニンニク、ノビル、アサツキのような香りの強い野草の総称)のほかにも、セリやカタクリ、ヨモギ、ヤマイモなども野山の植物が登場し、身近なものだったことがわかります。それにしても、酢醤油にニラ、鯛、想像するだけでもおいしそうです。
山菜が飢饉を救う
「山菜」は、古来より日本人の生活に密接に関わってきたこと、また日本の風土が生んだ貴重な季節の食だということがわかります。そんな山菜が、注目を集めることになるのが江戸時代。江戸時代には地震や洪水、火山の噴火、天候不順などがたびたび起こり、凶作や食糧難に陥る享保・天明・天保の三大飢饉があります。そんな飢饉時に、天候などにあまり影響を受けない山菜が人々の命を繋いだということです。中でも飢饉対策として有名なのが、江戸時代後期に米沢藩(山形県)で書かれた「かてもの」という救荒食マニュアルブックです。これは「なせば成る なさねば成らぬ何事も 成らぬは人のなさぬなりけり」で有名な上杉鷹山(ようざん)が凶作に備え、家臣などに編纂させたもの。
そこには、穀物の貯蓄のほか、約80種の草木果実を選び、その具体的な調理法や、魚・鳥獣肉の貯蔵法までも書かれていて、飢饉に備えるために藩内の農民や町民に配られていたそうです。この「かてもの」のすごいところは、飢饉時に書かれたものではなく、天保の大飢饉の約30年前に刊行されている点です。このマニュアルブックのおかげで、米沢藩では餓死者が非常に少なかったとも、一人も出なかったともいわれています。備えあれば…、今の私たちにも十分あてはまりますね。
山の神の授かりもの
山菜とは、一般的に野山に自生し食用になる植物で、人の手が加わっていない自然の恵みでもあります。古来より日本では、河海山野、鳥獣草木にまでも神々が成り坐していると考えられ、さまざまなものに感謝し、大切にしてきました。そのおかげで、今でも私たちがその恩恵に預かれるというわけです。草木といえども命をいただくことに変わらず、むやみに摂取せず、必要な部分を必要な量だけいただく。そしてなによりも根こそぎ採取しないということ。山菜摘みを楽しむ時も、上記のルールは守りたいですね。自然に感謝する気持ちを忘れずに、季節の味「山菜」をぜひ、この機会に味わってみるのはいかがでしょうか。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA
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