冬の花を守るための知恵~冬牡丹・わらぼっち~

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冬の花を守るための知恵~冬牡丹・わらぼっち~

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厳しい寒さが続き、花の少ないこの時期“植物園や寺院などで赤やピンク、紫など色鮮やかな冬牡丹(または寒牡丹)が見ごろを迎えている”というニュースを見聞きするようになります。鮮やかな色で人々を魅了する大輪の牡丹。わらぼっち(藁囲い)をかぶり、寒さに耐え凛と佇む姿は、まさに冬の風物詩と言えます。雪がしんしんと積もるなかで咲き誇る牡丹の姿はまた格別です。

牡丹はいつ日本にやって来たのか

「百花の王」「花王」「冨貴草」「名取草」「二十日草」「深見草」など多くの別名を持つ牡丹。昔から親しまれて来たこともあり、日本が原産地だと思っている人も多いのではないでしょうか。
実は、牡丹の原産地は中国で、中国の国花でもあります。その中国原産の牡丹がいつ日本に持ち込まれたのかということに関しては「聖武天皇の時代に渡来した」とも、「7~8世紀に薬用として遣唐使や空海が持ち帰った」とも言われ、時期に関しては定かでないようです。しかし、清少納言の『枕草子』や藤原道綱母の『蜻蛉日記』などに登場することから、平安時代にはすでに牡丹の花を観賞していただろうと言われています。

「冬牡丹」と「寒牡丹」の違い

本来、牡丹は4月下旬~5月が見ごろなのですが、この時期に咲いている牡丹は「冬牡丹」や「寒牡丹」と呼ばれています。調べて見ると、青々とした葉を携えているのが「冬牡丹」、花だけなのが「寒牡丹」だそうです。「冬牡丹」は春に咲く牡丹を温度管理などにより“春だよ”と思わせて冬に咲かせたもの。(写真は冬牡丹。茎や枝も青々としている。)

一方「寒牡丹」は春と冬に咲く品種で、牡丹自身が寒いことを知りながら咲くそうです。必要のないところには養分は送らないと決め込み、花を咲かせることに全集中するので、「寒牡丹」には葉がほとんどありません。(写真は寒牡丹。葉がほとんどなく、茎や枝が黒っぽい。)
上記で述べたように、「冬牡丹」は春に咲く品種を冬に咲かせているので、寒さに弱く、わらぼっちなどで覆われています。ただ、わらぼっちは装飾的な意味合いもあるようで「寒牡丹」にも被せている場合もあり、かぶっている、かぶっていないではなく、葉っぱがたくさんある、ほぼないで、見極めた方が良さそうですね。

わらぼっちってなに?

植物を霜や雪から守る「わらぼっち」。ひと株ごとにかぶせられた様子は、帽子をかぶっているようでもあり、小さな家のようでもあり、とても愛らしく、目を楽しませてくれます。

よく見ると南側が開いていて、太陽の光を取り込めるようになっている

藁を笠状に編んだものを「わらぼっち」などと呼んでいますが、本来は、脱穀が終わった稲わらを保存するためにまとめて積み上げたもののことを指し、牡丹などにかぶせているものは、その風景を庭に引用したものだそうです。
「わらぼっち」は地方や地域により呼び方も形もさまざま。

最近は機械で刈り取るので、藁は細かく切られ、このような光景が見られなくなりました。

藁ってすごい!

稲作は縄文時代に日本に伝わり、当時は穂だけを刈り取る「穂苅」でしたが、やがて農具が鉄製となり「根刈」へと変化。と授業でも習いましたが、このころから藁が利用されるようになったと言われます。

藁は、敲くと柔らかくなり、弾力性も増すので細工しやすい。さらに、保温や防水効果、通気性にも優れていることから、さまざまなものが作られています。わらじやかさ、みの、鍋敷きやオヒツ入れ、ムシロ、ゴザなどの生活用品をはじめ、しめ縄やしめ飾り、藁人形などの年中行事や信仰用具のほか、屋根葺き、土壁にも藁が使用され、日本人の生活に密着していることがわかります。そして、藁のすごいところは、土に還るということ。まさに環境リサイクル!

単に稲作は食料としての米を生産するだけではなく、その副産物である稲わらはもちろん、、刈り取った後に残る根株(そのまま土に残して田畑の肥料に)、もみ殻(クッション材として利用、枕の詰め物に、家畜の飼料など)、ぬか(ぬか床、家畜の飼料、精油など)に至るまで、余すことなく上手に活用していた先人の知恵には感心させられます。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA