何気ない日常会話に潜む仏教用語 其の三

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何気ない日常会話に潜む仏教用語 其の三

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私たちは、日常の生活の中でそうとは知らず仏教用語を使って話しをしていると言います。同じ意味で使われているものもあれば、まったく異なる意味として使われているものもあるようです。本来の意味を知ると、その言葉を深く感じることができますし、なぜその言葉が使われるようになったのかの由来を知るとさらにその言葉自体にも納得できるかもしれません。この記事では、筆者や、筆者の身近にいる人たちとの何気ない会話から仏教用語をご紹介していこうと思います。
友人「うちの旦那がさ、自分で登録した暗証番号を忘れたって、昨晩大騒ぎ(笑)」
筆者「それ、わかるわ。私は、携帯番号の暗証番号、もう、なんだったかすっかり忘れてるもん。機種変更の時、毎回、これかな?じゃあ、これかな?って」
キャッシュカードやクレジットカードなどの暗証番号やパスワード、IDは、悪用を防ぐために同じものを使いまわしてはいけないということで、別々にしていますが、これがまた思い出すのにひと苦労です。そこで、今回は、どうすれば他人に推測されにくい、また、本人が覚えやすい暗証番号を設定するか、というお話ではなく、さて、今回の会話の中に仏教用語は入っていたでしょうか。

-「旦那」

これ、仏教用語です。この言葉、まぁまぁ会話の中で使いますよね。今回の会話の中では「夫」という意味で使われていますが、ほかにも「若旦那」なんていうふうにも使われたりもします。さて、この「旦那」という言葉ですが、サンスクリット語の「ダーナ(檀那)」が語源で、布施、または布施をする人という意味だそうです。寺院や僧侶からすると、そういうことをしてくれる人たちのことが檀那というわけです。それが転じて、財産家や夫、パトロンのことをそのように呼ぶようになったそうです。経済的にも精神的にも支えてくれる存在が「旦那」ということになります。そのような意味から、男性だけなく女性も、また老いも若きも経済的に誰かを支える力を持っていれば、みんな「旦那」になれるということですし、反対に経済的に支えにならない人のことは「旦那」と呼んではいけないということです。「うちの旦那、稼ぎが少なくて」という使い方は間違いということですね(笑)。

-「暗証番号」

最近では、「暗証番号」と言うよりパスワードと言うほうが多いのかもしれませんが、それでもまだまだ「暗証番号」という言葉を使っています。「暗証番号」とは、本人であることを証明する、あらかじめ登録しておいた秘密の数字や文字のことを指しますが、これも仏教用語。仏教語の中に「暗証の禅師(ぜんじ)」という言葉があるそうで、デジタル大辞泉によると不立文字(悟りは文字や言葉で表せることはできないので、文字や言葉にとらわれてはいけないということ)を誤解して、経論などの理解・研究をあなどり、座禅などの実践だけで悟れるとすること。またそのような人をあざけった言葉。また、大辞林には、教理などの研究をないがしろにして、座禅などをもっぱらとし独断的な悟りに安んじている僧とあります。「暗証番号」は独断的なものなので、自分だけのという意味において、通じる感じがしてきました。以上のことから「暗証番号」を忘れてしまうのも、番号を決めるときに真の意味を軽んじ、その理解をあなどっているからということになるのでしょうか…。
「暗証の禅師」とは、理解や研究をあなどり、実践だけで悟れるとすることとあります。一般的に当てはめると、聞きかじっただけなのにすべてを理解したように思い込むこと似ているような気がします。もしそういうことならば、筆者はすでに「暗証の禅師」です。まだまだ修行が必要です。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA