何げない日常に潜む日本の文化 ~お辞儀編~

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「日本では鹿までお辞儀をするのか!」と奈良公園を訪れた外国人観光客が驚いたという話しを聞いたことがあります。奈良公園の鹿はお辞儀をすることで有名です。その真意はわかりませんが、鹿はただ「あなたが持っている、その鹿せんべいが食べたい!」だけだろうと、筆者は幼いころから奈良公園の鹿の行動を見て、そう思っていました。ではなぜ、奈良の鹿はお辞儀をするようになったのでしょうか。ではなく、なぜ外国人観光客が「日本では鹿まで」と驚くのでしょうか。それはきっと“日本人は礼儀正しい”というイメージを抱いているからだと思います。そんなイメージを持たれている私たち日本人ですが、果たして「お辞儀」についてどれぐらい知っているのでしょう。「お辞儀」の由来や意味について考えてみましょう。

-お辞儀はどんなときに使用する? 意味は?

「お辞儀」は、どんな時に使用しますか?
 ●挨拶をする時
 ●お礼を言う時
 ●謝罪をする時
 ●お願いをする時
 ●寺社へ参拝する時
など、多くの場面で日常的に私たちは使っています。
よく考えてみると、目の前に相手がいないのに電話口で頭を下げて挨拶をしたり、お願い事のメールを送る時も「お願いします」と頭を下げながら送信ボタンを押したりと、無意識に行っています。
「お辞儀」の本来の意味は“自分が相手に対して敵意がない。頭を下げることで無防備である”ということを示していると言われています。現在では、敵意がないとか、無防備だというよりも、頭を下げることで相手に対しての敬意や感謝、申し訳ないという気持ちを伝える動作ということになるのでしょうか。

-お辞儀はいつから始まった?

「お辞儀」は飛鳥時代から奈良時代に、中国の礼法(立礼)を取り入れたのが始まりとされているそうですが、それまでは土下座をしていたとか。最近筆者は、日本史の勉強を再び始めたのですが、「魏志倭人伝」の原文・現代文の中に“下層階級の者が貴人(身分の高い人)に道で出会ったときは、ひざまずいて両手を地面につけてうやまった”というような内容があったことを思い出しました。これは今で言う土下座のようなものだったのかなと思いますが、身分の高い人に対して頭を下げるという習慣があったようですね。
また、現在のような立礼は、第40代天武天皇(?~686年)が、両手を地面につけ、ひざまずいて行う礼法を禁止し、立礼にすることを命じたからだとも言われています。天武天皇は新しい国家を目指して律令の制定を命じたと同時に、日本を立礼国家にもしたと言われています。

-お辞儀の種類

お辞儀をする習慣は、日本だけでなく中国や韓国などアジア諸国のほか、欧米などでも見られるそうですが、アジアでは一般的に使用され、欧米では儀礼的に使用するという違いがあると言います。しかし、「お辞儀」に関する言葉や動作の種類が世界的に見ても豊富で、しかも用途により使い分けている国は日本だけだそうです。
一般的なお辞儀の形には「会釈」「敬礼(普通の礼)」「最敬礼」の3つがあります。「会釈」は上体を15度ぐらい、「敬礼(普通の礼)」は30度ぐらい、「最敬礼」は45度ぐらい傾けて行います。「会釈」は朝夕のなどの簡単な挨拶の時、「敬礼(普通の礼)」はお客様や目上の人に対して、「最敬礼」は感謝の気持ちやお詫びをする時や、高貴の方に対して用います。
上記以外にも職業や場面によりお辞儀の形はいろいろあるようです。

今回、日本で行われている「ラグビーワールドカップ2019」では、海外選手による「お辞儀」が話題になっています。ニュージーランド対南アフリカ戦では、真っ黒なユニフォームを着た多くの日本人ファンに感激し、ニュージーランドの選手たちが感謝の気持ちを込めて「90度のお辞儀」を行ったというニュースは記憶に新しいと思います。以降、イタリアやサモア、ロシアなど次々と日本式の「お辞儀」が広まりました。ラグビー選手たちの日本に対するリスペクトや日本人ファンに対する感謝の気持ちがよく伝わり、そのシーンに目頭を熱くした人も多かったのではないでしょうか。
お辞儀はコミュニケーションの入口とも言われ非常に大切なものですが、心が伴っていなければ意味がありません。「ラグビーワールドカップ2019」で行われた海外のラグビー選手による「お辞儀」は、心が伴っていたからこそ、私たち日本人の心に響き、ラクビーファンならずとも記憶に残ったのではないでしょうか。周囲の人に敬意をはらい、感謝の気持ちを持ち、素直な心で自然と「お辞儀」ができるようになりたいですね。そして「日本人は礼儀正しい」と言われ続けたいものです。
ライター:惣元美由紀
画像素材:PIXTA