赤湯温泉の湯神として信仰される「薬師寺」を訪ねる
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いろり端

探訪「1200年の魅力交流」

赤湯温泉の湯神として信仰される「薬師寺」を訪ねる

東北地方有数の名湯である赤湯温泉。歴史好きならば、上杉鷹山の湯治湯だったこともでも親しみを持っている方も少なくないでしょう。そんなJR赤湯温泉駅から、歩いて10分ほどの場所にあるのが、「松林山薬師寺」です。温泉との関係も深く、古からこの赤湯温泉の湯神として拝められていただけでなく、境内には「赤湯七水」のひとつの数えられる「薬王水」で手を清めることもできるなど、赤湯温泉を訪れた観光客も立ち寄る人気スポットとなっています。
案内していただいた住職の守谷俊章師にお話をお伺いしました。

「赤湯温泉の開基については、2説あります。一つは、弘法大師が杖を突いたところから湯が沸いてきたという教えがあります。一方で、慈覚大師が東北巡礼の際に、このお湯を発見したという説もあります。どちらが歴史的に正しいかは悩ましいところでしょう。ただ、赤湯温泉に限らず、昔から温泉が湧いている場所には薬師さんが祀られている場所がかなり多くあります。温泉で体を癒し、心を癒してくれる湯治は、治療的な部分もさることながら信仰的な意味合いが昔からあったわけです。いずれにせよ、昔のお坊さんのような信仰上のリーダーのような人物がこの場所に温泉があると発見したというのが、真実ではないかと推測しています」
温泉の中心街からわずかに離れただけで、一歩足を踏み入れれば、手入れの行き届いた庭園と周囲の杉木立のコントラストにしばし、時間を忘れてしまうほど。日頃の喧騒と隔絶した静寂と四季の花鳥風月を体感できるでしょう。
薬師寺は、天安2年(858年)に慈覚大師によって開山された古刹。壇信徒に支えられ、今も地元の重要な信仰の拠点として、多くの壇信徒さんがお寺を参拝する「先祖供養の場」としても地元の人から慕われています。
まず最初に訪れたのが、この寺院のある「二色根」という地名の語源ともなっているご本尊の薬師如来像が祀られています「薬師堂」へ。その由縁は、慈覚大師がこの地に赴いた際に、どこからともなく聞こえてきた鈴の音をたどったところ、二色の光を放つ巨大な霊木を発見し、その光源である根元を掘ったところ、石でできた赤と青の薬師如来像が発見されたことから、この場所に薬師寺を開山したという逸話が残っています。現在、このご本尊は秘仏として、公開されていませんが、鎌倉後期の作とされる「御前立ち」の薬師如来が我々を出迎えてくれました。般若心経の読経で、心を落ち着かせた一同は、貴重な話に耳を傾け、熱心にメモを取る姿も見受けられました。
「ここのご本尊は薬師瑠璃光如来という仏様でいらっしゃいます。皆様の目の前におられる薬師瑠璃光如来はお前仏でございます。ご本尊はお前仏の影、倉庫に入っております。ご本尊は秘仏でして、住職が誕生した時だけに、一度だけお参りできるようになっています。ですので、私も一度だけ住職に任命されたときに、お参りさせていただきました。それ以来開いていません。次に開かれるときは、私の弟子が住職になったときに、ここを開いて拝むことができるはずです。おかげさまでこうしたコロナ禍ではありますが、今年になって、私の娘とご縁があった方が、この7月に得度しました。来年には本山(比叡山延暦寺)に修行に行く予定ですので、少しは安堵したところです。

御前立ちであるこの薬師瑠璃光如来さまは、檜材による寄木造りで高さは87.7センチです。鎌倉時代後期の作と言われていますが、作者は不明です。何度かの修復がされていますが、このように光り輝き、ありがたいお姿をお示しになっています。簡単にご説明しますと、左手には薬の入った壺を持っています。この薬の薬効で、病を治してくださる。右手は、何もよせつけない。張り手をするような施無畏印という力強い印相をしていらっしゃいます。こちらの仏像は山形県の重要文化財に指定されています。
そして右側には不動明王。左側には毘沙門天。そして周りには十二神将。いずれも江戸後期の作ということでございます。ここのお祭りは春5月8日、そして秋は9月8日と例大祭を行っております。そして、毎月8日、お薬師さんの「薬師護摩供」を修法さしてもらっています。」
季節の移ろいを感じさせる境内の静寂は、200年ほどの樹齢を誇る杉木立が、「結界」の役割を果たしているかもしれません。開山当時は「松林山」という山号であることからも、多くの松の木が自生していたが、虫による松枯れなどでかなり減ってしまっているそうです。この杉木立は、江戸時代に熱心な篤志家の寄進により、今のような景観に生まれ変わったといいます。
「この山を登られますとまわりに杉の木がたくさんあることに気づかれた方もいらっしゃるかもしれません。実はこの杉の木立は、江戸期に近江商人である小川平左衛門という方が、この地に住みつかれまして、杉をたくさん寄進していただいたことで、現在のような景観をとどめています。小川さまという方は、北前船で東北など北国の紅花や色々な物資を西国に、又西国の物資を北国に運送し流通させた商人です。なぜこの地に住んだかと言えば、地元の女性を見初めたことで、ここに居を構えたそうです。だいぶ、台風の被害などで、古木は減っておりますけど、鬱蒼とした杉木立をなくさないように私たちは気を配っております。
それにありがたいことですが、今も小川家の方々が境内を訪れて、『この木は切った方がいいよ』などと的確なアドバイスをしていただいています。檀家さんの寺を護ろうという心が今も、この寺にとっての財産であると痛感するしだいです。」

古き良き堂塔に共存しているのが、平成13年(2001年)に落成されたばかりの本堂と法燈殿。
2階には地蔵菩薩が祀られ、仏様の左右それぞれ壁面に沿ってご位牌がズラリとならんでいます。また、正面にも整然と並び、ご位牌が納められた「位牌堂」と呼ばれ、地元の檀家さんの先祖供養の場となっています。これだけのご位牌を一堂に見渡せる壮観な光景は、本堂建立のために寄進した檀家とお寺が培ってきた先祖からのご縁の賜物かと思うと、感慨深いものがあります。
「平成13年に本堂と法燈殿が落成されまして、ちょうど今年20年目ということになりました。この本堂より以前の旧本堂は、大体230年ほど前の建物でございました。この杉木立に囲まれた立地条件ですと、境内に湿気が集まってまいりまして、今まで幾度となく改修、修理をしてまいりましたけど、いよいよ改修不能となりまして、建て替えとなりました。同時に法燈殿もかなり傷んでおりまして建て替えたわけです。

ちょうど完成から20年といいますと、新建材で建てました新しい会館の方が、色々と不都合が出てまいりまして、かなり建物の改修や設備の修理をさせていただきました。これも檀家さんに心地よく会館を使っていただけたらという思いからです。それほど檀家さんはお寺の運営にとっては大事な存在です。

皆さんは、お参りするとき、どのような気持ちで参拝しますか? 
私はこう考えます。まず境内に入り、の苔の庭と杉の木立の中、階段を上ってこられます。階段を上る時にはどのような掛け声をかけていらっしゃっていますか? 「どっこいしょ、どっこいしょ」といいますが、山を巡る山岳修験の行者は『六根清浄六根清浄』と掛け声をして登ってくるのがその語源です。

『六根清浄』とは欲望や煩悩を捨て、清らかな心持になること。その上で、仁王門において、仁王様に喝を入れていただきます。『悪いものはいないか。悪を働いている者はいないか』と。そして、身も心も清らかになり、やっと薬師堂に廻り着き、お薬師さんにご利益を頂戴するという風に考えるといいんじゃないですか。そうするとご利益を頂戴して帰るころには健やかな気持ちになって、みんな帰られると思うんです。参拝というのは、昔からそういう風に行われる信仰が綿々と続いたものです。
小さい頃から神社、お寺お参りなさると思います。どのようにお参りなさっていますか?
まずは反省をするのが最初だと思います。お寺に行ったら自分の願望ばかり「素敵な女性と出会えないだろうか」とか「勉強ができるように」とかそんなことばっかりお願いしているかもしれません。そんな心持ちでお参りしていたのでは、効き目はありません。 
本来は、神社仏閣に行ったらまずは、自らの身を反省してください。そしてそののちに「恐縮ですけど、お願いを聞いていただけないでしょうか?」と神様仏様にお願いするのが真っ当なお参りだということだと思います。自分の欲求ばかりでは仏様はぷんとそっぽを向いて、参拝者の言うことを聞いてくれません。よくよく反省して悔い改めて、願い事をすると。

私たち僧侶のお勤めも、日々そうした反省の繰り返しです。
一番最初にお唱えする。そしてお経を開いて読経をする。大概の法要はそういう風に行っています。それもまずは、自らを省みて反省し、平和安寧を御祈願することが大事でしょうね。

1000年以上の昔から地元の人たちに愛されてきた薬師寺。観光寺とも違う素朴な信仰のありように、学生たちも最後まで興味深く、御住職の話に耳を傾けていたのが印象的でした。

参加大学生の感想

「薬師寺を訪問し、たくさんの方々の想いに触れることができるお寺だと感じました。広大な庭園を寄進された方や本堂内の脇侍を寄進された方をはじめたくさんの方々がたくさんの願いや想いをお寺に託されていることが印象深く残っています。そのような想いに触れ、また御住職をはじめとするお寺のみなさんのあたたかさに触れ、心が和みました。」

「御住職のお話を聞く中で、薬師寺は檀信徒や地元の方々と深い繋がりのある寺院であると感じました。現代は宗教離れが進んでいますが、檀信徒や地元の方々が慈覚大師や薬師寺のことを大切にされていることから繋がりの深さが感じられ、それは薬師寺を承け継いできた方々が自分よりも檀信徒や民衆の心に寄り添い続けてきたからなのだと感じました。」

「薬師寺の庭などを寄贈された戸田丈夫氏が話された『貧しくとも人のために自分が何かできることを探す大切さ』については、最澄の忘己利他に通じるものを感じました。
薬師寺の御住職、みなさま、ありがとうございました!」
薬師寺
〒999-2231 山形県南陽市二色根19

山形県お寺巡りダイジェスト映像(約19分)

山形県お寺巡りの様子(記事)