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特集

第4回 オンライン大学コラボフォーラム(後編)

ご先祖が中臣家。日々の生活で歴史の伝承をどう感じるか

児玉 鈴鹿さんのご先祖が中臣家ということですが、日々の中で伝承されていること等はありますか?

鈴鹿 私の先祖は中臣鎌足のいとこにあたる方で、鈴鹿性になったのが明治維新の時です。
中臣というのは朝廷の位の名前で、代々、朝廷で神祇官をしてまいりました。

その影響もあり、昔から神事を大事にして育てられてきたので、「朝に神棚に手を合わせる」「旅行に行く前には神社に拝みに行く」など、日常に当たり前に染み込んでいて、忘れると気持ち悪く感じてしまいます。会社でも、伊勢参りなどは交代で欠かさず行っています。

長崎 中臣鎌足のような歴史的に有名な人物の家系を継ぐ、あるいは歴史のあるお菓子屋を継ぐにあたって、プレッシャーを感じることはありましたか?

鈴鹿 家系に関しては、ごく当たり前のこととして自分の中にあるので、プレッシャーは感じていませんし、敢えて重々しく語ることはあまりありません。それよりも日々の習慣や感謝の気持ちを大切に持つということを次につなげていきたいと思っています。

会社に関しては、入社した頃はやはりプレッシャーと思うこともありました。三百年以上続く企業と聞くと、周りから「大変だね」と言われることが多く、また当時まだ少なかった女性経営者という面でも不安を持っていたと思います。

これがだんだんと変化していき、歴史をつなげていくということよりも、200人以上いる社員の生活を守っていく責任があるということの方が、よほど大きな問題だと考えるようになりました。今でも勿論そのプレッシャーは感じています。丁度その頃、入社6年目で「nikiniki」ブランドをはじめたこともあり、歴史からのプレッシャーからは解放されていったように思います。新しいブランドを作るにあたり、300年以上の歴史があるから出来ることがあると知りました。

八ッ橋の歴史があるから、それをベースにした唯一無二のブランドを立ち上げられるし、挑戦も出来る。ある意味歴史に「守られている」とも言えます。このことに気付き、むしろ歴史は重さではなく強みだと感じるようになりました。

長崎 我々はこの活動を通じて、日常の積み重ねが気付いたときに伝統や文化として伝承されるのではないかと感じているのですが、鈴鹿さんはどうお考えでしょうか?

鈴鹿 まさにその通りだと思います。
最澄さんの不滅の法灯から生まれた油を絶やさない「油断大敵」という言葉がそうであるように、文化とはちょっとした日々の行いを怠ると、すぐに途絶えてしまうものだと思っています。逆に、誰も担い手がいなくなれば必然的に消えるものだとも思います。

私の中で文化とは「日常に自然に入っているもの」ととらえています。博物館に飾ってあり誰も手に触れないものではなく、皆が生活の中で接するもの。
たとえば、着物であれば着る機会があれば文化となり、誰も着る人がいなくなれば衣装として残されていても、もはや文化では無い存在になってしまうでしょう。そのため、着方は江戸時代の町人の間でも変わり、また現代ではそれとも大きく変わっている。用途の違いが大きいですが、その方が着る機会があるからこそ。時代とともにこのように変わっていきながらも、着物という文化を残したい思いを誰かが持っているからこそ、自然と伝承されているのだと考えています。

逆に想いがないまま、ただ「こうしたら面白い」「こうしたら売れる」という事だけではたとえその時はいっときの「ブーム」になったとしても、伝承されず、廃れていくだけだと思います。

長崎 初めにお話しいただいた、八ッ橋の定義が聖護院八ッ橋総本店にとっての文化ということになるのでしょうか?

鈴鹿 八ッ橋の定義が八ッ橋全体の文化の芯であり、変えてはいけない部分だと思います。そしてこの定義の中から生まれた商品を食べていただけるように、「おいしいものを作り続ける」というのが聖護院八ッ橋総本店にとっての文化かなと考えています。

若い人たちへ文化の大切さ 文化への接し方のアドバイス

児玉 鈴鹿さんのお話を伺って、昔から変わらず続いているものでも、実は時代と共に少しずつ変化していて、その中で常に変わらない本質的な部分が文化になるのかなと感じました。

鈴鹿 そうですね。「変わらない部分」がある中で、「変わる部分」がないと受け継がれていかないため、見極めるのは難しいとは思います。わかりやすい例では、歌舞伎の世界では顔見世などの古典をみせる舞台もあれば、昨今話題になった「ワンピース」や「ナウシカ」など最近のものを取り入れた歌舞伎もある。この両方があることで、ずっと古典のファンの方が変わらない文化を楽しむことが出来、また新しい題材を使うことで違う角度から入ってくる新たなファンが歌舞伎を好きになるきっかけになる。ここで古典を演じるのをやめてしまえば本末転倒で、それこそが「変わらない」本質なのかと思います。

児玉 これから、我々のような若い世代の方が次の世代に日本文化を引き継いでいかなくてはならないと思うのですが、どういう部分を大切にして、あるいは、どういう部分を考えながら伝えていけば良いとお考えですか?

鈴鹿 文化は嗜好品なので、無理して苦手なものを好きになる必要はないと思いますし、好きなものをより好きになればいいと思います。
ただ、文化を知ること自体はとても大切なことで、芸能であれば一度観てみて、食べ物であれば一度食べてみて、自分自身で経験したうえで自分なりの感想を持つべきだと思います。
今の時代のようにインターネットで情報をたくさん見られるようになると、文字で見ただけで知った気になるということが多いと思いますが、実際に経験せず文化を語るのは意味がないこと。何かを言葉にするならば、一度挑戦してみてほしいと思います。

長崎 私自身、京都に来てから意識的に伝統文化を体験しようと考えており、茶道や歌舞伎、狂言などに触れてきましたが、頭で知っているのと直接体験するのでは大きく違うなと感じました。
伝統や文化に触れあおうとしない若者はたくさんいると思うので、まず体験することの大切さを伝えていければなと思います。

鈴鹿 若い方が文化に触れようとしない理由として、敷居が高いと感じるという部分もあると思うのですが、このコロナ禍でオンライン化が進んだことにより、様々なものがオンラインで体験できるようになったので、身近なものから入りやすい良いチャンスかもしれないと思っています。
これを機に若い方にも文化が手の届きやすいものになればと思います。

児玉 私も最近茶道を始めたのですが、手順や道具、お菓子の意味合いなど実際に体験してみて、こんなに色々な世界が広がっているのだなとすごく感じたので、まず体験するきっかけがもっと多くの人にあればなと思います。「まず体験する」ということにも繋がってくるかとは思いますが、我々の世代に期待している事、アドバイス等があれば教えていただけますか?

鈴鹿 仕事をする上での大きな原動力は、私にとっては「好き」という想いです。商品のアイディアはすべて「こういうのが好き」「こういうのが欲しい」がきっかけになっています。「nikiniki」というブランドを立ち上げたのも、まず自分の好きなものを作ろうという想いからでした。実際、好きという気持ちがなければ、進んでこれなかったのではないかと思う部分もあります。

文化も同じで、先に述べたように好きなものを深めていくのが一番。好きになる文化は人それぞれだと思いますが、好きになったものはどんどん掘り下げていて、深めてもらえれば、いつの間にか文化の伝承になるのではないかなと思います。

これは、いわゆる古典的な文化に限らず、今生まれる文化もあると思います。いわゆる「クールジャパン」と称されるものも私は文化だと思いますし、百年先にも生きていれば誰かが「伝承したい」と思い存在し続けたということ。これまでの文化も誕生した時代というのがあるのですから、同じようにこれからの文化も、古典的なものと同様続いていけばと思います。

感想

児玉 今日のお話を聞いて、一見変化しているように見えても、しっかり受け継がれているエッセンスが文化ではないかと感じました。
やり方や工夫は時代に合わせてどんどん変わっていくものとしても、その中にある精神や相手への思いやりといった変わらない本質が文化ではないかというところが大きな学びでした。

長崎 「変わらないものが文化、だけれども変わる部分がないと文化も続いていかない」というお話がとても印象に残りました。
今日の学びは、文化だけではなく自分の日常の生活や大学コラボフォーラムで伝統文化を次の世代に繋げていくという事にもつながっていると感じました。
「変わらない部分」「変えていかなければならない部分」を明確にするというのは、当たり前にできることのように思われますが、実はなかなかできていない事ではないかなと思います。

私たちは「一隅を照らす」という最澄さんの教えや伝統文化を次世代へ伝えるという活動をしていますが、一隅を照らすという想いを、今の若い人たちに合った伝え方をしないといけないと感じました。
当初は文化といえば華道や茶道などの伝統文化を真正面から伝えなければと考えていましたが、本日のお話を聞いて若い人たちが、今人々が何を求めているのかを考えて、時代にあった伝え方が重要だと感じました。

鈴鹿 お二人がおっしゃっているように、文化について語り合う場があって、皆さんが自然と馴染んでいくのが一番いいと思います。
この大学コラボフォーラムで今後も発信しつつけることを頑張っていってほしいです。

児玉 長崎
ありがとうございました。