特集「一隅を照らす」
伝教大師最澄1200年魅力交流委員会委員
京都市長
門川大作さん
Q.京都にはたくさんの文化が残っており「京都=文化」という印象を持っています。 門川市長は「文化」とはどのようなものだとお考えでしょうか。また文化を繋げていくにはどういったことが必要だとお考えでしょうか。
その中でも京都は「生活文化」を大事にしてきました。例えば、食文化というのは、食べる物だけではなくて、お茶碗、そしてそのお茶碗をつくっている人も含めての文化なんですね。
そして、「もてなし」と「始末」。もったいないは大切なことです。一汁三菜と言いますが日頃始末して、ハレの日は豪華にする。だから、例えば、祇園祭はあんなに豪華なものになるんです。
決して京都は古いまちではありません。伝統をただ守り続けてきたのではなく、つねに挑戦し、進化し続けてきた先人の,京都市民の努力の積み重ねがあります。だから文化、伝統がつながっていく。こういった6つの得意わざ、市民の生き方を伝えていくのが文化を繋げていくのに大事だと思います。
今コロナ禍で当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなっています。人と会えない。会っても握手ができない。当たり前の反対語ってわかりますか? 感謝です。コロナ禍になってわかったのは、当たり前と思っていたことが有難いことだった。有ることが難しい、有難い。それが感謝につながります。
コロナ禍でもう一度、当たり前だと思っていたことが有難いことだったということを気付けば、皆が支え合い、人々に自然に感謝の気持ちが湧いてくる。今のパラダイムの延長では人類に未来はありません。それを変えるのは、2050年ごろに50歳を迎え社会の中心を担う皆さんの世代。2050年にCO2ゼロの達成。それなくして人類の未来はない。ライフスタイルはじめあらゆる改革が必要。そのきっかけになるのも文化じゃないでしょうか?
京都のまちの文化といえば、2022年度(令和4年度)中に文化庁は機能強化をして新・文化庁として、京都に全面的に移転することを決定しました。明治維新ですべての政府機関が江戸、東京に行きました。それ以来,初めての政府機関の移転です。その主旨は地方創生、文化で日本中を元気にする。そして、生活文化を大事にすること。さらに、より世界から尊敬される日本にしようとのこと。それに伴い、2017年(平成29年)には「文化芸術基本法」が改正され、文部科学省の設置法も改正されました。機能強化の一環として、地域文化創生本部が京都に創設され、京都への先遣隊の役割を担い準備がどんどん進んでいます。京都が文字どおり日本の文化の都になります。私自身も責任を感じると共に大変楽しみにしています。
Q.京都は学生の町であり、京都のまちが学生を育てていると感じています。門川市長は文化や伝承をしていく学生達(次世代)に何を担って欲しいとお考えでしょうか。
私は京都に生まれ、育ってきましたが、京都は包容力のある街で、ちょっととっつきにくいとか、ちょっとイケズなところ(笑)はあるかもしれない。でも京都は古くから学生さんを大事にして、よそ者扱いしない懐の深いまちだと思っています。私自身、学生さんから学ぶことも多いし、学校を問わずどの大学もみな、素晴らしい。
でもあえて、一言いうとするなら是非、京都のまち全体から学んでほしい。大学の枠を超えて、1200年を超える歴史とそこに伝わる京都の文化から学んでほしい。
Q.門川市長は「旅の本質を追求する観光戦略」を打ち出しておられます。寺社仏閣参詣は時代や社会情勢によって変化していると考えているのですが、門川市長は今の時代の「寺社仏閣参詣や寺社仏閣の価値や役割、そして観光の在り方」についてどのようにお考えでしょうか。
旅の本質を追求するという点では、ウィズコロナ社会で、感染拡大防止と観光を両立させるため「3つの集中」を打破する取組に改めて挑戦していきます。ひとつは季節の集中。京都の観光客は桜の季節と紅葉の季節にどっと人が訪れる。そして、時間の集中というのもある。京都観光の7割は日帰りだから、昼から夕方に集中する。そして、場所も集中しています。この「3つの集中」を徹底して分散化していく。ビックデータ等も活用し、快適に安全に観光してもらい、観光の効果を市民の豊かさにつなげる取組となるよう、引き続き関係者と努力しています。
Q.歴史は偉人だけが繋いでいるのではなく、一人一人が生活の中で紡いできていると活動を通じて感じました。平安時代から日本を護る場所として京都と密接な関係だった比叡山延暦寺ですが、門川市長からみた比叡山延暦寺とはどのような存在でしょうか。
Q. 現在オンラインで精進料理づくりの会を行っています。その中で 「文化は人と人が交流して紡ぐもの」と気づき、精進料理を通じて文化を未来に紡いでいこうと同会を実践しています。コロナ禍の中、人と人との交流に制限がかかっている現在ですが、ニューノーマルの中での交流をどのようにお考えでしょうか。
リアルでこうしてお話させていただいて、心通じるのも大事です。ではオンラインではどうか。京都市では3月中に全ての市立学校に1人1台の端末を配備しますが、コロナで休校になった時でもオンラインで授業を。そして日常授業でも、一人一人の児童・生徒に個別最適化、同時に集団的な学び合いをどう両立させていくかという研究と実践を続けてます。先生たちと話していると、大きな可能性と課題も出ている。現場の先生たちも大変だと。オンラインでできないこともいっぱいある。ある先生が「(オンラインによるカリキュラムは)余白がない」という言い方をされていて、言い得た表現だと思いました。リアルならば、一人一人と向き合って、話を聞いて問いを立てて、答え合って、人との関係性を含めてのコミュニケーションすべてが余白の妙で成立している。それをオンラインでどう埋めていくかというのは難しいですね。
一方で、オンラインの良さもある。ヨーロッパには京都を好きな人がたくさんおられて、その人たちが俳句を作って交流をされている。去年の夏から、今月のテーマは「祇園祭」。来月は「送り火」。その次は「虫の音」と。そうやって、離れていても京都に思いを馳せていただいているというのは、ありがたいですね。
Q.魅力交流の活動の中で自分なりの「一隅の照らし方」をみつけました。門川市長にとっての「一隅を照らす」、そして伝教大師最澄に対してどのような思いをお持ちでしょうか。
そしてもちろん、私、京都市長として、市民の皆さんの命と健康、暮らしを守らなくてはいけない。特に学生さんがコロナ禍で勉学も生活も厳しい。こういう実情も国に対して説明をして、可能な支援策をしていく。それが私の市長としての大きな仕事です。
1200年魅力交流委員会では様々な事柄にスポットを当て「一隅を照らす」ことによって文化が成立するということを再認識する機会にしたいですね。
1152年前、日本中で自然災害、火山の噴火、大地震、津波などが続発し、また、京の都をはじめ日本各地で疫病が流行したとき、神泉苑(現在の二条城の南)に当時の国の数にちなんで、66本の矛を立て、帝が全国の平安及び災厄の除去を祈られた。そこに祇園社から、神輿を贈られた。昔は死んだ人の魂が収まっていないからそういうことが起こると。だから祈るしかなかった。それが素晴らしい世界遺産の祇園祭のはじまり、「祇園御霊会」です。
行政と文化が強い関わりを持っているということについて、様々な観点からお話いただきました。歴史や文化が長年受け継がれている京都では、お寺や神社だけではなく人々の心が文化として受け継がれている、というお話が特に興味深かったです。
また、市長という行政のトップの立場におられる方が、これほど文化というものに対して強い思いを持っていらっしゃるということからも、京都の街にとっての文化の重要性を強く感じました。人々の心にある文化こそが、京都を、これだけの歴史が続いてきた街に育てた要因なのではないかと強く思いました。
この大学コラボプロジェクトにおいて、行政の長の方とお話をさせていただいたのは私にとって初めての機会でした。そしてこれまでにお話を伺った方と同様に、それぞれの立場からの文化への関わり方があるということ、行政というのはそこに住む人たち全員に関わることだからこそ、その影響力も大きく、文化と結びついた行政が京都の街全体を保ち、動かしてきたのではないかという思いを抱きました。
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