
特集「一隅を照らす」
穏やかな日差しのもと執り行われた三千院門跡・御懺法講に参列する
【2025年5月30日訪問】
後白河天皇が行った宮中御懺法講を起源とする

後白河天皇が宮中の仁寿殿で奉修して以降、宮中御懺法講は宮中法会の1つとして営まれ、三千院門跡の歴代門主が調聲(ちょうせい)を務めるようになりました。伝えられている記録によると、現在のように毎年奉修される法会ではなく、天皇や皇后などの周忌の年に行われていたといい、御懺法講は宮中における仏教儀礼が廃される明治時代まで続けられました。

こうして復興された御懺法講でしたが、再び中断することになってしまいます。これは、時代が第二次世界大戦へと突入し社会が混乱していたためでした。その後、三十数年後の昭和54年(1979)、戦後復興の第1回目となる御懺法講が三千院門跡で奉修され、翌年の昭和55年(1980)から現在と同様に毎年5月30日に奉修されることになりました。そして、「声明懺法・呂様」、「声明懺法・律様」、「声明例時」の3つの法儀を1年に1つずつ、3年で1まわりするように定められ、今日まで奉修されてきました。
日々積み重ねた罪を悔い改める法会が始まる

式衆の入堂が終了すると、「捲御簾」となります。「捲御簾」では、大臣役を務める僧侶が後白河天皇のお像をおまつりする厨子の扉を開き、お像の前にかかる御簾を捲きあげます。
そして、奉行役を務める僧侶が発する「総礼。総礼。総礼。」の言葉に従い、お姿をあらわした後白河天皇に対し、式衆全員で礼拝をします。

続く「三禮(さんらい)」は、「仏」と仏の教えである「法」、法を実践する人を表す「僧」を敬い、礼拝するという声明。そして続く「七仏通戒偈(しちぶつつうかいげ)」では、お釈迦さまとお釈迦さま以前にあらわれた六人の仏さまの教えが唱えられます。その後、小声で唱える「六為(ろくい)」に続き、式衆の声をまとめる調聲(ちょうせい)をつとめる三千院門跡門主、小堀光實(こぼりこうじつ)師により「法則(ほっそく、法要の趣旨)」が読み上げられました。

さらに、阿弥陀如来を念じる「甲念仏(こうねんぶつ)」、お釈迦さまが説かれた阿弥陀如来のお経である『佛説阿弥陀経』を唱える「経段(きょうだん)」、念仏を唱える「合殺(かっさつ)」においても式衆は行道を続けます。
諸仏に廻向申し上げる「廻向(えこう)」、御懺法講を通して諸仏からいただいた功徳に感謝し諸仏の徳を讃える「後唄(ごばい)」、日々の生活の中で積み重ねた罪を最後にもう一度悔い改めるという意味合いを持つ「大懺悔(おおいさんげ)」、阿弥陀如来の徳を讃える偈文から構成される「五念門(ごねんもん)」と続き、御懺法講は終盤へと至ります。
調聲をつとめる小堀師は礼盤を降り、後白河天皇の御簾をおろす「垂御簾」へと移ります。式衆が平伏するなか、大臣役の僧侶によって御簾がおろされ、厨子の扉が閉じられます。
心から自分自身の日々の生活を悔い改め、世界の平和を祈る

「本日は、三千院門跡にご縁のある多くの方々にお参りしていただきました。心から感謝御礼申し上げます。」
「私からも御懺法講について少し触れさせていただきたいと思います。御懺法講のご本尊さまは、正面のお軸に描かれている普賢菩薩さまでございます。日々の生活を送る中で、私たちは意識によって悪い事をしてしまうこともあれば、無意識によって悪い事をしてしまっているかもしれません。御懺法講はそのような日々積み重ねた罪を悔い改めるための行であります。そして、その悔い改めるという心をおこす時に御懺法講のご本尊さまである普賢菩薩さまがしっかりと見守ってくださるというわけであります。」

天気予報では雨模様の予報が出ていた令和7年5月30日。しかしながら雨模様の予報は外れ、三千院門跡の境内には穏やかな日差しが降り注ぎ、人々の笑顔が溢れていました。この光景は、三千院門跡に集った皆さまが、心から自分自身の日々の生活を悔い改め、よりよい未来を願ったということを表しているように思えました。およそ1000年以上伝えられてきた御懺法講がこれから先もたくさんの人々の拠り所として伝えられていきますように、そして、三千院門跡の境内に広がる穏やかな光景があたりまえの世界になりますように、そのような願いを胸に抱きながら三千院門跡を後にしました。
〒601-1242 京都府京都市左京区大原来迎院町540
2025年5月30日
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