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いろり端

特集「一隅を照らす」

令和6年12月07日(土)ご訪問

水間観音と地域を守る「水間鉄道」を訪ねる

【2024年12月07日訪問】
大阪と和歌山の間にある貝塚。ここに井原西鶴「日本永代蔵」の“利生の銭”の舞台として知られる名刹水間寺があります。大正5年の正月、南海電鉄の難波駅長を務めたこともある川崎覚太郎は考えた。交通の便の悪い所なのに、これだけのお参りがある。この地に鉄道を敷けば、もっと人が来るようになろう。電車が通れば観音詣でだけではない、繊維業を得意としていたこの地域も発展するのではないかと。現在では駅舎が大阪の登録有形文化財に指定されている水間観音駅にて、水間鉄道の歴史と、現在同鉄道が行っている取り組みについて、水間鉄道の天野さんにお話を伺いました。

水間鉄道の歴史

「大阪府貝塚市を走る水間鉄道は、大正5年に川崎覚太郎によって構想され、水間寺への参拝客の利便性向上と地域の繊維業の発展を目指して計画されました。当初は約10kmの路線を予定していましたが、工事の困難さから現在の貝塚-水間間の5.5kmに計画が縮小され、大正14年12月に貝塚南-名越間が開通し、翌15年1月には名越-水間間が完成して全線開通を迎えました。開業後は水間寺の紋日には多くの参拝客で賑わいましたが、平日の利用者は少なく、政府の補助金を受けながら経営を維持する状況が続きました。」

「1970年代には、地域とともに発展していきたいという想いから住宅販売や自動車販売など事業の多角化に挑戦し、時代の変化に寄り添う努力を重ねてきました。しかし、少子高齢化や人口減少の波に抗えず、2005年には258億円の負債を抱えて経営破綻という苦渋の決断を迫られました。それでも、「地域の足を守りたい」という強い使命感のもと、多くの人々の支援を受けて翌年には再生への歩みを始めました。ワンマン運転の導入などのコストカットの取り組みは行いつつ、より水間寺に親しみを持ってもらえるように水間駅から水間観音駅に変更するなど、地域の人々との関わりを大切にする取り組みも行われました。かつて年間417万人を超えた利用者数は現在では半分以下まで減少しているものの、2023年には債務超過を解消するなど、回復の兆しが見られます。水間鉄道は、100年の歴史で培ってきた「地域とともに歩む」という精神を今も変えることなく、日々新たな挑戦を続けながら、人々の生活に寄り添う取り組みを続けています。」
ここからは、実際に水間観音駅を案内してもらい、学生たちの感じた疑問に答えていただいたときのものになります。歴史ある駅舎に秘められた様々な魅力についてご説明いただきました。

歴史を感じる駅舎の鉄骨支柱

「水間観音駅のホームの柱には、アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーのUSスチールの前身の会社である、製鉄会社カーネギースチールから購入された鉄製レールが使用されています。
これらの柱には「CARNEGIE」の名前と製造年の1898年の文字が刻印されています。水間鉄道が開業したのは1925年であるため、これらの柱はそれ以前に製造されたものをどこかで購入したものだと推察されます。レールとしてではなく、そのまま柱として再利用されているというのがなんともおもしろいですよね。」

「水間鉄道は沿線の発展とともに、当初の1両編成から2両編成へと規模が拡大しました。その結果、カーネギーの鉄柱が使用されている区間と、後のホーム延長工事で新たに設置された普通の柱が混在しています。このような駅の外観からも見られる歴史的な要素は、水間鉄道の魅力の一つかと思います」

魅力的な水間鉄道の取り組み

「水間鉄道では、かつて東急東横線を走っていた1000形車両(旧東急7000系)が現在でも利用され、日々活躍しています。そんな歴史ある車両を実際に用いて、水間鉄道の所有する線路内で実際に参加者が運転する運転体験ができます。かつて東京から高齢の参加者が訪れ、「毎日通勤で乗っていた電車を運転できる日が来るとは思わなかった」と感動の声を残されたこともあったそうです。」
「運転体験は車庫線と呼ばれるメンテナンス用の線路で行われ、約100メートルの短い区間を合計3往復する。3往復目では実際の運転テストが行われ、速度や停車位置、乗り心地のチェックが行われます。この際、大阪市交通局(現大阪メトロ)の指導運転士兼教習係が試験官を務め、厳格な基準で点数が付けられます。これまでに満点を取った参加者は1人しかいないそうです。
大変関心のわくこの取り組みであるが、この体験は水間鉄道のある想いで取り組んでいます。」

>どうしてそんなに採点が厳しいのですか?

「運転体験はアトラクションではありません。普段我々がどれだけ安全面に気を使っているか。運転体験の試験もそうですが、 衝動棒といって大きく揺れたら倒れる棒があって、それを用いてお客様が怪我しないため、乗り心地、安全面、そういった事をいかに鉄道職員が気を使ってやっているのかをお客さんに体感してもらいたいという想いで取り組んでいます。」

「鉄道は日本が誇るカルチャーですね。私は昔アメリカに住んでいましたが、アメリカやヨーロッパ等の電車やバスはなかなか時間通りには来ません。それだけ日本の鉄道はすごく正確です。その正確さの裏にどれほどの気配りが込められているかを知ってもらいたいです。」

>運転体験は単なるアトラクションではなく、鉄道職員が日々どれだけ安全面に配慮しているかを体験者に伝えたいという想いがあることが伝わりました。
 普段私たちが当たり前に利用している鉄道ですが、鉄道関係者の方々の思いを知るためにも、ぜひ体験に参加してみたいと感じました。

水間鉄道の今とこれから

「水間鉄道は年間約170万人が利用されています。元はもう少し多かったのですが年々減っていますね。やはり水間寺のための鉄道として始まったので、お正月シーズンはたくさんの方が利用されます。
ですが、年々少子化も進み、また道路も整備され、便利な幹線道路ができると一層鉄道に乗る人が少なくなっていきます。
こういった時代の変化がそのまま水間鉄道の課題となっている状況ですね。」

「やはり水間寺へのご参拝が増えることが水間鉄道にとって重要と考え、11/2~12/1迄は水間寺のライトアップイベント、デジタルアートフェスを開催しました。これを機会にこの地域の魅力もアピールできればと考えた取り組みです。
元は貝塚の顔であった水間寺に新たな光を当てて、観光のお客様にも来ていただければと考え実施しましたが、なかなか難しいですね。どうしてもお越しになる方々は車で来られてしまいます。」
「これは鉄道業界全体にいえるのかもしれませんが、働き方や交通手段が多様化していく現代において、やはり鉄道という交通手段を選択してもらうこと自体が困難になっているようです。新しい顧客を獲得するために観光に特化した取り組みを行うと、普段利用している地域住民の方から反発の声が増えてしまう。地域の交通インフラを守るために手を取り合って協力してもらってきた住民の意見も大切にしないといけない、しかしこのままでは徐々に衰退していってしまう。日常を守るための非日常とのバランスはとても難しいものがありますね」

「水間鉄道の認知度をあげるため、様々な取組みをやっています。例えば先述のデジタルアートフェスを電車を活用して実施みたり。あまりイメージできないかもしれませんが、DJとダンサーが電車の中でイベントをするという企画でした。あまりの意外性に楽しかったというお声もありましたが、先ほどお話しした日常と非日常とのバランスを考える難しい点もありました。(笑)」

取材を終えて

水間鉄道には、地域の歴史とともに育まれてきた魅力が凝縮されていました。歴史あるカーネギー時代の柱、国内でも希少な運転体験、そして地域のシンボルである水間寺を軸にした様々なイベントは、利用する人々に感動を与えるものばかりでした。
地域住民の交通手段としての役割を果たしながら、新たな観光資源としての可能性を探る挑戦をすることには、多くの困難が伴うと思います。人口減少や地域の過疎化という現実に立ち向かいながらも、水間鉄道は未来に向けて一歩ずつ確実に進んでいました。
鉄道はただの移動手段というだけではなく、人々の生活や思い出を運ぶものとして大切にして運営していることが、取材を通じてひしひしと伝わってきました。2025年には鉄道開業100周年を迎える水間鉄道は、これからも地域とともに成長し、新たな貝塚の魅力を発信していくことに期待したいと思いました。

(文・立命館大学理工学部3年)
水間観音駅
大阪府貝塚市水間
(取材ご協力:水間鉄道株式会社 天野ジャック氏)