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いろり端

特集「一隅を照らす」

令和6年11月10日(日)大般若転読会に参列

除災与楽を祈る大般若転読会が執り行われた毘沙門天の聖地・「本山寺」を訪れる

【2024年11月10日訪問】
山々のモミジの葉先がほんのりと色づき始めた2024年11月10日。毘沙門天の聖地として名高い本山寺(高槻市)にて大般若転読会(だいはんにゃてんどくえ)が執り行われました。険しい山上に伽藍を構える本山寺の境内には、日本全国から除災与楽を祈る人々が訪れます。今回、祈りの声が響く本山寺を訪れるご縁をいただきました。

山々に力強い祈りが響き渡る

第5代将軍徳川綱吉公の母である桂昌院が援助し大改修が行われたという本堂の中でしばらく時を過ごしていると、鐘が鳴らされました。その音に従い、鮮やかな法衣を身にまとう僧侶の方々、行者の方々が入堂し、着座します。

ご住職を中心に僧侶の方々の祈りの言葉が紡がれます。その声は本堂内だけでなく、山々に響き渡ります。僧侶の方々が祈りの言葉を紡ぐと同時に本堂の左手の護摩壇では、行者の方により護摩がたかれます。護摩壇の正面には、平安時代中期に造立されたと伝えられている不動明王立像が安置され、護摩木に記された参拝者の願いを受け止めます。護摩壇に立ち上がる炎が力強く立ち上がり、まさに不動明王が姿をあらわしたかのような感覚を覚えました。
ご住職の言葉に従い、ついに大般若経の転読が始まります。
『大般若経』とは、『大般若波羅蜜多経』(だいはんにゃはらみったきょう)のことで、唐の時代、西遊記の三蔵法師のモデルとして知られる玄奘三蔵が、自らが西域より持ち帰った膨大な量の般若経典群を翻訳しまとめた経典です。全部で600巻にもなる膨大な経典群として知られています。

古来よりこの『大般若経』を用いて祈りを捧げれば様々な功徳があるとされ、日本では大宝3年(703)に初めて『大般若経』を用いた法要が執り行われたそうです。しかしながら、全600巻もある『大般若経』をすべて読み上げるとなると、かなりの時間が必要になります。そこで、奈良時代頃から経典の名前や訳した人物の名前を読み上げる「転読」(てんどく)という方法が行われるようになったとされています。「転読」がはじまった奈良時代、経典は巻物として保管されていました。そこで法要では巻物を開き、「転」がして「読」んでいたことから「転読」と呼ばれるようになったといいます。

時は流れ、経典は巻物ではなく現在の御朱印帳のような折本で保管されるようになりました。折本では経典を「転」がして「読」むことはできません。それでは、どのように「転読」を行っているのでしょうか。
ご住職の言葉とともに、僧侶の方々が手に持つ経典の名前を大声で唱えます。すると、経典を頭上高くに持ち上げ、経典の表紙を持つ片方の手を下にし経典を流すように落としていきます。そして「降伏一切大魔最勝成就」(ごうぶくいっさいだいまさいしょうじょうじゅ)の声とともに経典を机にバンと叩きつけて、次の経典へと移ります。

法要の後、参拝者に向けてご住職からこの意味についてお話がありました。

「まず経典を高く持ち上げて転読する意味についてです。このように経典をダイナミックに転読することで風が生まれます。その生まれた風に乗り経典に記された内容が参拝者のみなさまに届くとされています。」

「そして、読み終えた最後に机にバンと経典を叩きつけます。こちらは経典を食べてしまう虫を追い出すという意味があります。このように力強く叩きつけることにより虫を取り除き、経典を未来へ伝えるという意味が隠されています。また、先ほどの転読に関しても、風通しを行うことで防虫効果が期待できるという側面もあるようです。」

ご本尊さまの前で経典が空中に舞うその力強い光景は、身に降りかかる様々な災いから守ってくれると感じさせる素晴らしいものでした。

再発見された貴重な毘沙門天曼荼羅

この法要では、なんと再発見された貴重な宝物が公開されていました。
その名も『毘沙門天曼荼羅』。毘沙門天を中心に毘沙門天に連なる様々な眷属の姿を三幅の掛け軸に描いた曼荼羅です。中央の掛け軸には、宝塔を左手に持ち右手に檄(げき)を持つ毘沙門天を中心に、龍王や説法使者の姿が描かれています。左右の掛け軸には毘沙門天につかえる八大夜叉大将や二十八使者の姿が彩り豊かに描かれています。また表装には、桂昌院ゆかりの家紋・九目結紋が使われております。
「こちらの毘沙門天曼荼羅図は、江戸時代に描かれたものであると伝わっています。この曼荼羅をおさめている箱に記された文章には、松平資訓(まつだいらすけくに)によって寛延年間に本山寺に寄進されたとあります。この松平資訓という方ですが、京都所司代という役職を務めた方であり、本山寺本堂の大改修を援助していただいた桂昌院に連なる方になります。そうしたご縁から、こちらの毘沙門天曼荼羅をご寄進いただいたのではないかと考えております。」

「毘沙門天曼荼羅は多く伝えられておりますが、こちらの毘沙門天曼荼羅の珍しい点があります。それは、三幅に分けて曼荼羅が描かれていることになります。三幅に分けて描かれていることから、現在伝えられている他の毘沙門天曼荼羅とは諸尊の配置の仕方が異なっているようです。この曼荼羅にどのような祈りが込められているのか、どのような歴史が秘められているのか今後に期待しています。」

法要のために日本全国から本山寺に人々が集う

今回参列させていただいた「大般若転読会」を目的に本山寺にたくさんの参拝者の方が訪れていました。何人かの方にお話しをお聞きしたところ、毎年1月3日に執り行われる初寅会大護摩供や5月の第2日曜日に執り行われている宇賀神弁財天法要、9月の施餓鬼法要とともに毎年参列している方も多いそうです。また5月と11月の法要の際には、境内で裏千家の方による野点(のだて)が行われているそう。雄大な自然が広がる本山寺の境内で、訪れる参拝者の方々とお話をしながらお茶を飲むひと時は非常に楽しく、心が温まりました。
本山寺の大般若転読会は毎年11月第2日曜日に執り行われています。また、毎年1月3日午前四時に執り行われる初寅会修正会や5月の第2日曜日に執り行われている宇賀神弁財天法要、11月第2日曜日の大般若転読会では、国の重要文化財に指定されているご本尊・毘沙門天立像がご開帳されるとともに、本堂におまつりされている仏さまの姿を近い距離で参拝することもできます。祈りの声が山々に響く法要とともに本山寺を訪れてみてはいかがでしょうか。
本山寺
大阪府高槻市原3298
大般若転読会