行基開山の鎌倉最古の寺院 「杉本寺」を訪ねる
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探訪「1200年の魅力交流」

行基開山の鎌倉最古の寺院「杉本寺」を訪ねる

2023年9月18日 訪問
神奈川県鎌倉市に位置する「杉本寺」は行基菩薩の開山と伝えられ、鎌倉における最古の寺院であるとされています。また坂東三十三観音の第一番札所とされており、多くの人々から現在にまで篤く信仰されてきている寺院です。静川慈祐住職にご案内いただきました。

鎌倉最古の奈良時代から続く霊場

杉本寺の本堂は、山の中腹に位置しています。石段を登り仁王さまにみつめられながら仁王門をくぐり進むと、観音堂が見えてきました。前を通る鎌倉街道は昔も今もにぎやかですが、一歩境内に入ると緑に包まれ穏やかな時間の流れる静かな空間が広がっていました。現在の本堂は、延宝6年の再建であり、県の重要文化財に指定されています。杉本寺は坂東三十三観音の第一番札所のご本尊とされていることもあり、本堂の壁には多くの絵馬や千社札が貼らるなど、たくさんの方々の信仰を集めてきたと感じることができます。

「杉本寺は天平6年、聖武天皇の后であった光明皇后の発願により、行基菩薩が大蔵山において一刀三礼にて自ら21日間かけて十一面観音菩薩像を造りお祀りしたことに始まった、鎌倉最古の寺院です。慈覚大師円仁や恵心僧都源信は、行基菩薩の造られた像に感銘を受け、同じように一刀三礼にて21日間かけて十一面観音菩薩像を造られ、現在はその3軀がご本尊となっています。」

「杉本寺という名の由縁は、杉がご神木の寺院だからといわれています。鎌倉は100年前の関東大震災の影響で、ほとんどの寺院の建物が潰れてしまいましたが、杉本寺は岩盤の上に建っていたこともあり、奇跡的に影響を受けず、今も江戸時代の建物が残っています。この江戸時代の建物より前のお堂が火災に遭った際、3軀のご本尊をご神木の杉の根本に避難させたことで守ることができたとされています。この話から杉の本の観音様として、杉本観音と信仰されています。」

観音様の縁日に行う護摩行

今回は観音様のご縁日である18日に参拝し、護摩行にも参列させていただきました。
「18日の観音様のご縁日は年々ご参拝者が増え、特に1月、5月、9月の正五九と呼ばれる月は、ご本尊様との御縁が深まる月であるため参拝の方が多くなります。」

 お堂の中に入るとすでに多くの参拝の方々がおられました。遠方からの参拝に来られる方も多く、近年は外国の方の割合が高くなっているそうです。
護摩行が終わると秘仏であるご本尊を近くで拝観させていただきました。

「十一面観音という観音さまをお祀りしたのは、光明皇后が観音様を厚く信仰されていたため、関東の地にもその信仰を広めていきたかったからといわれております。なぜ十一面観音という尊像を選んだのかの詳細は不明であるのですが、杉本寺は一つのお堂の中に、3軀の十一面観音菩薩立像がお祀りされる三尊同殿という珍しい形となっています。十一面観音菩薩が3軀で11×3となり33になります。観音菩薩は33の姿に変え衆生を救うとされています。坂東三十三観音の第一番札所となっていることもあり、本尊を拝んでいただくことにより33の功徳を得られるともされています。」

本尊の3軀のうち、2躯が国の重要文化財に指定されています。

源頼朝公との繋がりを示す仏像やお堂

3軀のご本尊の前には御前立としての十一面観音菩薩立像が祀られています。

「こちらの像は鎌倉時代に源頼朝が運慶に命じて造らせたとの伝承を持つ像になります。当時源頼朝は、本堂に祀られている3軀のご本尊を後世に遺していくためには、この場所では危ないとお考えになり、内々陣を造りご本尊を秘仏とし、代わりとして御前立をご寄進したと伝えられています」
文治5年に火災に遭い、建久2年に源頼朝が修理料・寺領を寄付したことが吾妻鑑に記されています。
「ご本尊をお守りする上で最も怖いのが火災になります。本日はご縁日であるため、ご本尊の前の実際の蝋燭も灯していますが、そういう火は人任せにせず、必ず自らで火を消すようにしています。」

「本堂の左側にも十一面観音がございます。こちらの像は、先代のご住職がこの本堂で自ら彫られた像になります。近年では少なくなっているのですが、お坊さんの修行として仏像を彫るというものがあったようです。このようにしてこちらの本堂には合わせて十一面観音菩薩が5軀お祀りされています。」他には賓頭盧様や鎌倉二十四地蔵尊の4番身代わり地蔵と6番尼将軍地蔵となっている2躯の地蔵菩薩、本尊の脇侍としての不動・毘沙門天、観音様のあらゆる姿をあらわす三十三応現身像といった多くの像がお祀りされていました。

(文・奈良大学文学部4回生)

参加学⽣の感想

今回の訪問では、長い歴史の中で多くの方々による杉本寺に対する厚い信仰に驚きました。本堂のあらゆる場所に千社札や絵馬が飾られ、護摩行に参列されている方も多くおられるなど、現在もこのお寺が深く愛されていることを肌で感じることができました。観音様のご縁日で行われる護摩行が始まり、護摩の火が高く上り煙に包まれていくとともに、参拝の方々と唱えるお経や御真言等の言葉が響き合い広がっていくように感じられ、この「音」はご本尊様にも必ず伝わっていると思いました。これは護摩を行うご住職と共に参拝の皆さんが声を発しているからこそ、生まれたものであり願いが多く込められているからであるのだと感じることができました。
 
ご本尊さまをご拝観させていただき、暗くてはっきりとはみえなかったのですが、薄暗い中に浮かび上がる3軀の十一面観音菩薩立像は、体部や衣文の表現が異なり、それぞれ少し厳しい表情をしていたように思いました。お像の前にいると「しっかりとやっているか」と尋ねられているように感じられ、護摩行の時間も含め今までの生活を改めてよりよくしていかなければならないと、気を引き締めました。
大藏山杉本寺
〒248-0002
神奈川県鎌倉市二階堂903