比叡山延暦寺とのご縁を繋ぎ、幸せを運ぶ 坂本ケーブルカーを支える優しさの継承
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探訪「1200年の魅力交流」

比叡山延暦寺とのご縁を繋ぎ、幸せを運ぶ
坂本ケーブルカーを支える優しさの継承

写真提供:坂本ケーブル

日本一長いことで知られる坂本ケーブル。90年以上の歴史を誇り、比叡山延暦寺の表参道として麓からケーブル延暦寺駅までを11分で結んでいます。ヨーロピアン調の車両は、比叡山延暦寺を訪れる人々が良いご縁を結ぶように、また、幸福を運ぶ車両となるようにと「縁」号、「福」号と名付けられ、第253代天台座主・山田恵諦猊下(げいか)白寿(99歳)の折りのご真筆の「縁」と「福」がそれぞれに記されています。今回は、比叡山延暦寺の玄関口として重要な役割を担う、坂本ケーブルの車掌 山本憲次さんに坂本ケーブルと比叡山延暦寺との繋がりや、90年以上の歴史を持つ坂本ケーブルで受け継がれていることなどを伺ってきました。

-90年以上の歴史を持つ坂本ケーブルで受け継がれていることを教えてください。

坂本駅では、開業当時から駅員たちが発車時間の少し前から駅舎の入口付近に立ち、乗車されるお客様を出迎え、乗車のご案内をしています。
比叡山延暦寺を訪れる方の中には、「延暦寺」という一棟の建造物があると思われている方もいらっしゃるようで、“広大な寺域は、「東塔(とうどう)」、「西塔(さいとう)」、「横川(よかわ)」と3つのエリアに別れ、それぞれに中心となる本堂があるんですよ”という観光案内もさせていただいております。
駅員がフレンドリーで優しいとご好評をいただいており、とても嬉しく思います。

-地元の方々は坂本ケーブルをどのように利用されていますか。

坂本と比叡山延暦寺を結ぶ路線ですので地元の方が頻繁に利用することは多くありませんが、比叡山延暦寺で法要があるや、初詣時には大変多くの方にご利用いただきます。地元の方は比叡山延暦寺と密接な繋がりのある日吉大社と併せて、比叡山延暦寺へも沢山の方が初詣に行かれます。

-平日や週末、また季節のお休みによって乗客の顔ぶれも違ってくるかと思います。どのような方はご乗車されますか。

私は、坂本ケーブルでの勤務は5年になるのですが、そのころに比べて、外国人観光客が目立つようになってきました。英語でご案内する機会もあり、あまり上手ではないですが、通じると嬉しいですね。平日や週末には、遠足や修学旅行などの団体のお客様と比叡山延暦寺までハイキングを兼ねた年配のグループ、春休みや夏休みになりますと家族連れの乗車が多くなります。運行ダイヤは基本1時間に2本ですが、春の桜、秋の紅葉シーズンの週末や休日は多くのお客様が乗車されますので、増発することもあります。
2020年には明智光秀を主役とした大河ドラマも始まりますし、さらにいろんな方が来られるのではないかと期待しております。

-ご乗車された方にお伝えしていること、またお伝えしたいことを教えてください。

坂本ケーブルの魅力は、全長2025mの日本一の長さを誇ること、ケーブル延暦寺駅や車窓からの琵琶湖の眺めが抜群に素晴らしいこと、レトロ感たっぷりの駅舎は国の登録有形文化財に登録されていることのほか、「縁」号、「福」号と名付けられた由来は必ずお伝えしています。
お伝えしたいことは、比叡山延暦寺は“自分自身を見つめ直す場所”でもあるということでしょうか。私は地元出身で、比叡山中学・高校を卒業しており、最澄さんの教えを学生時代に学びました。学生のころはあまりピンときませんでしたが、年を重ねると最澄さんの「一隅を照らす」や「忘己利他(もうこりた)」という言葉もしっくり心に馴染みます。私がそうであったように、今はよくわからなくても、のちのち比叡山延暦寺はそういう所なんだなということを思って、また、来てもらえたら嬉しいですね。

比叡山延暦寺 にない堂(西塔)

-ご乗車された方と特別なエピソードはありますか。

比叡山に生息している野鳥の中に「やまがら」という小鳥がいるんですが、ケーブル延暦寺駅に到着するたびに駅員がエサをやり、その甲斐があって、やまがらが手のひらからエサを食べるようになりました。そんな光景をお客様がご覧になり、やってみたいとおっしゃられ、エサを与えてみると、そのお客様の手のひらに乗り小鳥がエサをついばみました。そのことに大変感激され、お手紙をいただいたことがあります。

-「坂本」とはどのような町ですか。

私にとっては、生まれ育った場所であり、心のふるさとです。比叡山の麓に広がる坂本の町は、比叡山延暦寺・日吉大社の門前町として栄えました。参道沿いには比叡山延暦寺の僧侶の隠居坊・里坊などの屋並みや、穴太衆石積みの石垣が続き、落ち着きのある美しい歴史的景観は、ほかではなかなか出合うことができない、素晴らしい町だと思います。京阪電鉄を定年退職後には、何かしらの形で地元に貢献したいと思っていましたので、5年前に坂本ケーブルに配属された時はとても嬉しかったです。

-取材を終えて

坂本ケーブルは、参拝者や国内外からの観光客、ハイカーの足として門前町坂本とを結んでいますが、インタビュー中、山本さんは、比叡山延暦寺に参拝されて、にこやかに戻ってこられるお客様のお顔を見ると、とてもうれしく思うとおっしゃっていました。その話しを聞いて、車両の名前のとおり「縁」を繋ぎ、「福」を運ぶ乗り物なんだなと感じました。
山本さんをはじめ、駅員のみなさんはとても優しく、インタビューを終えた後もいろんなことを教えてくださいました。ケーブルカーに乗車しているのは運転手ではなく車掌であること。これは山の天候は変化しやすく、どのような自然の変化が待ち受けているかもわからないので、乗客の安全と快適性に配慮しているということです。運転手は山上のケーブル延暦寺駅にいること、ケーブルカーでは珍しい中間駅があり、そこに何があるのかということ。また、架線がなく駅で充電式しているにも関わらず、あえてパンタグラフは残し、工費削減や工期短縮を実現したこと。架線がないのにパンタグラフを上げて走る姿はちょっとユーモラスです。そして、最後にケーブル延暦寺駅の駅舎2階のテラスからの眺めは抜群だということでご案内いただきました。
比叡山延暦寺の玄関口にふさわしい優しい駅員さんたち。そんな駅員さんたちに出迎えられると、ほっこりとした気持ちになります。坂本駅とケーブル延暦寺駅を結ぶ11分間の乗車をぜひ楽しんでください。

ケーブル延暦寺駅2階からの眺望