恵心僧都源信作と伝えられる阿弥陀如来立像を祀る「福昌寺」を祀る
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探訪「1200年の魅力交流」

恵心僧都源信作と伝えられる阿弥陀如来立像を祀る「福昌寺」を訪ねる

2023年11月14日 訪問
秋空が高く澄み渡る11月中旬、神奈川県川崎市にある、金剛山福昌寺を尋ねました。福昌寺はこの大学コラボプロジェクトにもアドバイザーとしてご協力いただいている飯沼 康祐さんが副住職を務めておられるお寺です。この度は本委員会の委員長であるサントリーホールディングス鳥井信吾副会長とご一緒にお参りさせていただき、飯沼副住職の精進料理をご馳走になりました。

金剛山福昌寺は天正元年(1573年)に恵賢阿闍梨により開山された、約450年の歴史のあるお寺です。恵賢阿闍梨は関ケ原の合戦の際、徳川家康公の陣で天海大僧正とともに必勝祈願を修し、東軍が勝利したため恩賞をもらい、また、大坂夏の陣・冬の陣では和睦の使者として活躍もしたという逸話があります。開山時は多摩川の近くに位置していましたが、江戸時代初期に現在の場所に移りました。大正12年(1923年)の関東大震災翌日の落雷で旧本堂は焼失してしまいましたが、昭和46年(1971年)に現本堂が再建されました。

旧本堂が焼失の難に遭いながらも、御本尊である阿弥陀如来像は当時のご住職によって助け出され、また太平洋戦争でも防空壕に隠されたことで難を逃れました。現在でも本堂宮殿に安置されており、手を合わせることができます。ご本尊に戦争で持ち出す際にできてしまった傷を、飯沼副住職のおばあさまはとても気にしておられたそうで、晩年に修繕なされたそうです。長年に渡り、大切にお寺とそのご本尊を守り続けてきた方々の思いが伝わってきました。すっとした立ち姿と柔らかなお顔立ちが印象的でした。

また、本堂には魚籃世音菩薩も安置されています。福昌寺は多摩川三十四ヶ所観音霊場巡りの13番の札所になっており、そのご本尊がこちらの魚籃観世音菩薩ということです。手に魚が入った籠を持っているお姿のため、魚籃観世音菩薩というお名前だそうです。その昔、魚を入れた籠を持って売り歩く美しい女性が現れ、経典を暗誦することができるものと結婚すると言い、求婚する男性を競わせたそうです。女性は無事諳んじることができた男性と結婚することになりますが、女性は観音像に変わってしまいます。女性は実は観音様であり、世の中に仏教を広めるためにあらわれた、という故事から、このようなお姿の観音様が作られ信じられるようになったそうです。人々の生活と仏教の深いつながりを感じさせる観音様です。小さくて優美なお姿に、心が癒されました。
お参りの後は、飯沼副住職の作る精進料理をいただきました。大学卒業後、飲食店に勤めながら調理師免許を取得された飯沼さんは、食を通じた布教活動に携わっていらっしゃいます。当委員会でも精進料理づくりの会を行った際にご指南いただきました。

食事の前に合掌、斎食儀(さいじきぎ)というお経を読んでいただき、解説もしていただきました。その中で行ったのが、生飯(さば)という作法です。自分のお茶碗からお米を七粒取り分けることで、鬼たちに供えます。また、十の利益があるというお粥をいただいた後、二枚あるたくわんのうちの一枚で、食べ終わった後のお茶碗を拭い、お茶ごと静かにいただくという作法を行いました。これは洗鉢(せんぱつ)といい、目の前のことを丁寧に行う作法で、過去を引きずり未来の心配ばかりをしてしまい、現在を疎かにしないようにすることを示しているそうです。お経を聞き、作法を行うことで、仏様の教えを実感し、生き物の命をいただいて生かされていることに改めて感謝の気持ちを感じました。

今回頂いた精進料理は、秋の食材をふんだんに使ったものです。精進料理と聞くと、どうしても味が淡白な和風のものをイメージしがちですが、飯沼さんの作られる精進料理は一味違います。和食から洋食まで、色とりどりの料理が順番に並びます。特に印象的だったのがマイタケの揚げ物とボロネーゼ風のパスタです。マイタケの揚げ物は、動物性の食材を使わない精進料理のなかで、牡蠣のような食感と味わいを目指されたそうで、食べてみると確かに牡蠣のようなまろやかな風味を感じました。旬の食材である柿もつけあわせとして使われており、爽やかな味が広がりました。また、ボロネーゼ風のパスタは、ボロネーゼのような味、見た目でありながら、こちらも野菜の皮や出汁殻の大豆、昆布など普段は捨ててしまわれそうな食材でソースが作られており、濃厚な味わいを楽しむことができました。洋食という形で精進料理を楽しむことができることも新鮮で、印象に残りました。

福昌寺では、今回体験させていただいたような精進料理会の他にも、座禅会や円空仏彫刻会など、様々な行事を行っています。飯沼さんがこのように様々な行事を行っている背景には、お寺の敷居を下げるのではなく、入り口を増やすことで仏様の教えを知ってほしい、お寺に親しみを持ってほしいという考えがあるそうです。今後もこのような行事を開催し、お寺の輪を広めていきたいとお話しいただきました。
 仏教の教えが生活の中で大切に守られてきたことを感じ、また精進料理をいただくなかで仏教の作法についても知ることができた、学びの多い訪問となりました。
金剛山福昌寺
〒214-0008
神奈川県川崎市多摩区菅北浦5-3-1