いろり端
探訪「1200年の魅力交流」
人々を救うために思惟し続ける美しい如意輪観音様をまつる「松尾寺」を訪ねる
大阪府・奈良県・和歌山県にまたがる葛城の山々。
雄大で厳しい自然が育まれるこの地は、神や仏がおわす霊地として古来より人々の祈りを受け止めてきました。
大阪府和泉市に伽藍を構える松尾寺。
約1350年前に修験道の開祖とされる役行者が創建して以来、自然の中に多様な神や仏の姿を見出した先人たちの祈りを今に伝えているお寺です。
心地よい秋風が木々の葉を揺らす松尾寺の境内にて、松尾寺の住職を務めている川岸慎哲師と川岸洸哲師に松尾寺の歴史と魅力をお話しいただきました。
雄大で厳しい自然が育まれるこの地は、神や仏がおわす霊地として古来より人々の祈りを受け止めてきました。
大阪府和泉市に伽藍を構える松尾寺。
約1350年前に修験道の開祖とされる役行者が創建して以来、自然の中に多様な神や仏の姿を見出した先人たちの祈りを今に伝えているお寺です。
心地よい秋風が木々の葉を揺らす松尾寺の境内にて、松尾寺の住職を務めている川岸慎哲師と川岸洸哲師に松尾寺の歴史と魅力をお話しいただきました。
◇役行者により創建され、泰澄大師によって整備された泉州の名刹

金堂 大阪府指定文化財
「本日はようこそお参りいただきました。せっかくお参りいただきましたので、松尾寺のご紹介をする前に、皆さんとともに般若心経をお唱えしたいと思います。」

ゴーンと鳴るお鈴の音。
境内の木々の葉擦れの音や鳥のさえずり。
般若心経を唱える声。
様々な音が重なり、調和し、堂内に響きます。
それはまるで、役行者をはじめ多くの先人たちの祈りが重なる松尾寺の歴史を表しているよう。
学生たちは約1350年の歴史へと誘われていきます。
境内の木々の葉擦れの音や鳥のさえずり。
般若心経を唱える声。
様々な音が重なり、調和し、堂内に響きます。
それはまるで、役行者をはじめ多くの先人たちの祈りが重なる松尾寺の歴史を表しているよう。
学生たちは約1350年の歴史へと誘われていきます。

「その後、奈良時代には、現在の北陸地方にある霊峰白山を開いた泰澄大師が松尾寺を訪れ、伽藍を整備したと伝えられています。さらに、平安時代には弘法大師や第3代天台座主を務めた慈覚大師円仁が松尾寺を訪れ、仏様を刻み、おまつりされたと記録にあります。」
そうそうたる方々が訪れた古代の松尾寺。
中世になると益々隆盛を極めていきました。

「また、中世の松尾寺は非常に規模の大きいお寺であったと伝えられていまして、寺領が7000石、松尾寺の傘下の末寺が約300寺、僧兵が数千人という大きなお寺でした。大名の所領が1万石からと言われていますから、一国の大名に迫る規模と人員を持っていたお寺が松尾寺であると言えば分かりやすいでしょうか。」

「織田信長が本能寺の変で自害したのち、天下の覇権を握ったのが豊臣家になります。豊臣家は戦乱で荒廃した寺院や神社の復興を手掛け、この松尾寺の復興も実施していただきました。現在皆さんが座るこちらの金堂は、豊臣秀頼公が大阪の四天王寺阿弥陀堂を移築した建物になります。建物の構造や内部の彩色など、当時のものが大きく改変されずに残っている点が貴重であることから、大阪府の文化財に指定されています。」

「天井や壁面をご覧いただくと、龍が3体描かれていますね。龍は水をつかさどる神様であり、おまつりするとお寺や建物を火災から守ってくださるそうです。この龍や他の壁画も秀頼公によって松尾寺にこの建物が移築された際に描かれたものですので、この建物を火災から守ってほしいという願いが込められているのだと思っています。これらの極彩色の美しく迫力ある壁画は、私の知る限り一回も修復をしたことがないです。約400年前に描かれた絵が現在まで変わらず伝えられていることの凄さを感じ取っていただけたらなと思います。」
「後に豊臣家から徳川家へ覇権が移ることになりますが、徳川幕府の歴代将軍からも保護していただき、現在へと歴史を伝えています。」
飛鳥時代から現代にいたるまで、偉人達が訪れ祈りを捧げた松尾寺。
その圧倒的な1350年の歴史に圧倒される学生たちでした。
「後に豊臣家から徳川家へ覇権が移ることになりますが、徳川幕府の歴代将軍からも保護していただき、現在へと歴史を伝えています。」
飛鳥時代から現代にいたるまで、偉人達が訪れ祈りを捧げた松尾寺。
その圧倒的な1350年の歴史に圧倒される学生たちでした。
◇すべての衆生を救うために思惟しつづけている御本尊・如意輪観音様
悠久の歴史の中でたくさんの人々の心の拠所となってきた松尾寺。
その祈りの中心にいらっしゃるのが御本尊である如意輪観音様です。
その祈りの中心にいらっしゃるのが御本尊である如意輪観音様です。

秘仏御本尊・如意輪観音菩薩坐像(非公開) 4月第一日曜日に執り行われる採灯大護摩供の際に御開帳される
「皆さん中央に視点を移してください。中央にお祀りしている仏様が松尾寺の御本尊である如意輪観音様です。通常ですと、1年に1度、4月第一日曜日に執り行われる採灯大護摩供のときだけ御開扉する秘仏ですが、今回皆さんが松尾寺をお参りするということで特別に御開扉いたしました。」
「御本尊様を御開扉する採灯大護摩供は松尾寺で一番大きな法要でして、修験道の霊地の一つである奈良県の大峰山から行者さんをお招きし、境内で大きな護摩を修します。修験道の祈りや文化を体験することができる機会ですので、皆さんぜひ訪れてくださいね。」
特別に御本尊様の間近でお参りさせていただくと、如意輪観音様の独特な姿に気が付きます。
「御本尊様を御開扉する採灯大護摩供は松尾寺で一番大きな法要でして、修験道の霊地の一つである奈良県の大峰山から行者さんをお招きし、境内で大きな護摩を修します。修験道の祈りや文化を体験することができる機会ですので、皆さんぜひ訪れてくださいね。」
特別に御本尊様の間近でお参りさせていただくと、如意輪観音様の独特な姿に気が付きます。

「ですから、「如意輪観音」というお名前には、様々な願い事を叶えるとともに煩悩を打ち砕く観音様ということが表されているということになりますね。」

秘仏御本尊・如意輪観音菩薩坐像(非公開) 4月第一日曜日に執り行われる採灯大護摩供の際に御開帳される
「続いてはそのお姿を見てみましょう。片膝をたてて、肘をついて何かを考えている姿(思惟)をされています。そして、それぞれの足の裏をあわせる「輪王座」という座り方をされています。」
「それでは何を考えているのか、その答えは如意輪観音様の腕の部分にヒントがあります。皆さんが仏様の姿を思い浮かべると、私たちと同じように、2本の腕を持つ姿を想像すると思います。しかしながら、如意輪観音様の腕は2本ではないですね。数えていくと6本の腕があります。この腕の本数にも意味がありまして、仏教で説かれている6つの世界(六道:天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)に生きるすべての衆生を救うということを表しています。」
「つまり、如意輪観音様のお姿は、「生きとし生けるすべての生命を救うためにはどうすればよいのか」と考え悩み続けている観音様の姿を表しているということになります。」
普段何気なくお参りしている仏様。
その姿に様々な意味が秘められていることに気づかされます。
「それでは何を考えているのか、その答えは如意輪観音様の腕の部分にヒントがあります。皆さんが仏様の姿を思い浮かべると、私たちと同じように、2本の腕を持つ姿を想像すると思います。しかしながら、如意輪観音様の腕は2本ではないですね。数えていくと6本の腕があります。この腕の本数にも意味がありまして、仏教で説かれている6つの世界(六道:天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)に生きるすべての衆生を救うということを表しています。」
「つまり、如意輪観音様のお姿は、「生きとし生けるすべての生命を救うためにはどうすればよいのか」と考え悩み続けている観音様の姿を表しているということになります。」
普段何気なくお参りしている仏様。
その姿に様々な意味が秘められていることに気づかされます。

「役行者様のお像が造立された詳細な年代は明らかになっていませんが、どっしりとしていて古い時代のお像であると聞いています。これらのお像も御本尊様と同様に普段は秘仏ですので、この機会にぜひご縁を結んでいただけたらと思います。」

◇1350年の歴史が秘められている境内
「せっかくですので、金堂以外の建物もご案内しましょう。」
ご住職とともに、境内を巡ります。
「こちらが、松尾寺の入口となる山門になります。建てられたのは、江戸時代の宝永2年(1705)になります。2層構造になっていまして、一層目には東西南北を守る四天王様をおまつりしています。お寺の中に悪いものを入れないという勇ましい姿が特徴です。」
ご住職とともに、境内を巡ります。
「こちらが、松尾寺の入口となる山門になります。建てられたのは、江戸時代の宝永2年(1705)になります。2層構造になっていまして、一層目には東西南北を守る四天王様をおまつりしています。お寺の中に悪いものを入れないという勇ましい姿が特徴です。」

山門
「2層目には、文殊菩薩様をおまつりしています。普段は公開していないですが、智慧を司る仏様である文殊菩薩様も学生の皆さんにお会いしたいでしょうから、2層目に登ってみましょう。階段がかなり急なので気を付けて登ってくださいね。」
急な階段を慎重に登っていくと、そこには獅子に乗る凛々しいお姿の文殊菩薩様がおまつりされていました。
急な階段を慎重に登っていくと、そこには獅子に乗る凛々しいお姿の文殊菩薩様がおまつりされていました。

文殊菩薩騎獅像
「こちらの文殊菩薩様は、松尾寺が隆盛していた室町時代、永禄10年(1567)に造立された仏様です。文殊菩薩様と台座の獅子の凛々しいお姿が特徴ですね。」
山門に差し込む日の光と灯火に照らされる文殊菩薩様と獅子の姿。
山門内の陰翳の美しさを身にまとう文殊菩薩様と獅子の姿からは、たとえ姿が直接見えなくても、お像の下を通る人々を力強く見守り続けるという強い意志を感じました。
山門に差し込む日の光と灯火に照らされる文殊菩薩様と獅子の姿。
山門内の陰翳の美しさを身にまとう文殊菩薩様と獅子の姿からは、たとえ姿が直接見えなくても、お像の下を通る人々を力強く見守り続けるという強い意志を感じました。

「こちらは、首堂というお堂です。このお堂の歴史は古く、源平合戦が繰り広げられていた平安時代の終わりごろまで遡ります。現在の兵庫県須磨付近で行われた合戦である一ノ谷の戦いで源氏方は勝利をします。源氏方で活躍した源義経公は、敵味方問わず一ノ谷の戦いで戦死した人々を弔うために、戦死者の首級を3艘の船に乗せ、そのうちの2艘を四天王寺に、残りの1艘を松尾寺に送ったと伝えられています。その送られた首級を丁重に葬り弔った場所がこの首堂が建つ場所であるとされています。」
中世に隆盛を極めたという松尾寺の境内には、乱世という厳しい世相の中生きた先人たちの祈りの痕跡が今も残されています。
◇学生たちへ、ご住職の想い
「皆さん、「一隅を照らす」という言葉を聞いたことがありますか?」
ご住職が学生たちに語りかけます。
ご住職が学生たちに語りかけます。

「皆さんのこれからの学生生活や社会に出られてからの人生では、大きな壁に直面することや思い通りにならないことも多々あると思います。その時に、この「一隅を照らす」という言葉に込められた意味のように、何かをずっと思い悩み続けて道に迷うよりも「一旦今自分が置かれている現状で最善を尽くしてみよう」と考えると前向きに進むことができると私は思います。実際、私も大きな壁に直面した時にこの「一隅を照らす」という言葉に何度も助けられ、前へと進んでいくことができました。」
「今回、このような皆さんと交流する機会をいただき、私たちにとっても非常に有意義な時間を過ごすことができました。いつかまた、この松尾寺で皆さんとお会いできることを楽しみにしています。」
たくさんの先人たちの祈りが重なる松尾寺。
真剣にそして談笑を交えて交流し、いつの日かの再会を誓う松尾寺の皆さんと学生たち。
その姿をあたたかく見守るように、心地よく穏やかな秋風が吹き抜けていきました。
たくさんの先人たちの祈りが重なる松尾寺。
真剣にそして談笑を交えて交流し、いつの日かの再会を誓う松尾寺の皆さんと学生たち。
その姿をあたたかく見守るように、心地よく穏やかな秋風が吹き抜けていきました。

◇参加学生の感想

6本の腕が天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道の六道を表しており、その六道に存在する人間や動物などのすべての命を救うことを深く考えているお姿が如意輪観音様のお姿であるとご住職に教えていただきました。今回、特別に御開帳していただいた御本尊様のお姿をお参りしていると、金色に輝くお姿や穏やかでどこか物憂げな眼差しが印象深く感じ、いつまでも御本尊様と対峙していたいと感じました。役行者が開創して以来、如意輪観音様の眼差しにうつる社会はどのようであったのか、大いに隆盛したという松尾寺の悠久の歴史を御本尊様の眼差しから強く感じました。
立命館大学 大学院 博士課程
松尾寺
〒594-1154 大阪府和泉市松尾寺町2168
〒594-1154 大阪府和泉市松尾寺町2168
人から人へと紡がれてきた
大切な想いや魅力について語り合う
地域で育まれてきた歴史や文化を語り合い、
新しい価値と出会います