いろり端
探訪「1200年の魅力交流」
出羽一佛と称される千手観音さまをまつる古刹「吉祥院」を訪ねる

「出羽国」と称され、様々な信仰や文化が花開いた東北地方西部。出羽国の一部である山形県山形市に、奈良時代より1300年以上信仰を集め、「出羽一佛」と称される御仏がおまつりされる古刹・吉祥院が伽藍を構えています。サクランボが赤らみ始めた6月上旬に学生たちが吉祥院を訪問し、ご住職を務める布施晃精師に吉祥院の魅力をご案内いただきました。
流行する病を鎮め、世の安寧を祈るために3体の千手観音さまを安置する
吉祥院をご案内いただいた布施晃精師は、親しみやすいお人柄で、学生たちにわかりやすく吉祥院の歴史とおまつりされる仏さまの魅力を語っていただきました。



「ただし1年に1度だけ、8月10日の四万八千日万燈会の際には、奥之院を御開帳して皆様にお参りしていただいております。万燈会の際には、境内に蝋燭や行灯が置かれ、燈火が境内を照らします。ぜひいつか万燈会にもお参りしてくださいね。」

ご住職のお言葉に胸を躍らせながら、奥之院の重厚な扉が開かれることを心待ちにする学生たち。
扉が開いた瞬間に学生たちの目に飛び込んできたのは、数千年を生きた大樹と相対しているような重厚感と穏やかさを併せ持つご本尊さまのお姿でした。
「出羽一佛」と称される篤い信仰を集めるご本尊・千手観音さま

千手観音さま、阿弥陀如来さま、薬師如来さまのご真言を唱えてお参りしたのち、おまつりされている仏さまの魅力についてご住職からお話しいただきました。




ご本尊さまに対する想いをご住職は語ります。
「いつのころからか腕を失ってしまった千手観音さまですが、腕がないことで千手観音さまとより一層向き合えるのではないかと考えています。他の腕が伝えられている往時の姿を想像してみますと、ご本尊さまそのもののお姿ではなく、その背後にあるたくさんの腕に注目してしまうような気がしませんか。腕が失われているからこそ、お参りする方々がご本尊さまの様々な面を感じながら祈りを捧げることができると思いますし、その点がご本尊さまや吉祥院の他の仏さまの魅力であると考えています。」

ここで、ある1つの疑問が生まれます。
「それではなぜ、脇立の2躯は千手観音さまから阿弥陀如来さま・薬師如来さまと仏さまの名前が変わったのでしょうか。この答えは、山形で隆盛した修験道にあります。山形には山岳信仰の聖地、羽黒山・月山・湯殿山があります。この山々は山岳修験の霊地として大いに栄え、日本各地の霊山とも交流があったといいます。現在の和歌山県に熊野という霊地がありますが、熊野でまつられている熊野三所権現の思想が行者によって山形に入ってきたとき、熊野三所権現のそれぞれの本地仏である千手観音(那智)・阿弥陀如来(本宮)・薬師如来(新宮)を3躯の仏さまに割り当てたのだろうと推測されています。」
千手観音さまに対する信仰だけでなく、山岳信仰の思想も含まれるという吉祥院の信仰の多様さに驚かされました。
ご本尊さまを囲む平安時代に造立された御仏たち
吉祥院には平安時代に造立された仏さまが他にもおまつりされています。

「厨子の前、向かって右側には勢至菩薩さまと伝えられている仏さまと吉祥天さまをおまつりしております。向かって左側には、子安観音さまと伝えられている仏さまと毘沙門天さまと伝えられている仏さまをおまつりしております。こちらの4躯も平安時代に造立された仏さまであると考えられています。」



四季折々の花々に彩られる吉祥院の境内

吉祥院の境内には、四季折々の花々が咲き乱れます。
今回訪問したのは6月初旬。参拝する方々を境内に咲くサツキやアジサイが迎えていました。
ご住職にお聞きすると、広大な境内の手入れは、ほとんどご住職とご家族の方々で行っているそうです。
今回訪問したのは6月初旬。参拝する方々を境内に咲くサツキやアジサイが迎えていました。
ご住職にお聞きすると、広大な境内の手入れは、ほとんどご住職とご家族の方々で行っているそうです。

「蓮が育つ池には「七宝抜苦 福徳息災 延命曼荼羅塔」を整備しています。諸仏が悟りを得た世界を表した曼荼羅を庭園の中に再現し、皆さんに巡っていただき、皆さんの願いが成就するようにという願いを込めています。ぜひ皆さんも巡ってみてくださいね。」
花々や花々に集う生き物に囲まれながら、境内を巡るご住職と学生たち。
その顔には自然と笑顔が育まれます。
穏やかな雰囲気が流れる境内は、まるで観音さまの浄土のようでした。

仏さまを次の世代へと伝える

学生たちに向けてご住職は語ります。
「皆さんお疲れさまでした。吉祥院の魅力を感じとっていただけましたか。」
「私は、ご本尊さまをはじめとする仏さまはこのお寺の生命線であると考えています。火災や盗難などで私の代で絶えてしまっては、今日まで仏さまを伝えていただいた先人たちに申し訳ない。だからこそ、仏さまをお守りする事、そして吉祥院にお越しくださる皆さまに仏さまとご縁を結んでいただくことを第一に考えています。今回皆さんが感じ取っていただいた魅力を、皆さんのまわりの人に、世界に発信していただき、また皆さんに再び吉祥院でお会いできること楽しみにしております。」
吉祥院の境内を巡ると自然と笑顔になり、居心地の良い心地を感じることができました。これは、観音さまのもとで千年以上育まれてきた空気感なのでしょう。皆さんの笑顔、そして美しい花々に囲まれる中、ご住職や吉祥院の皆様との再会を誓う学生たちでした。
参加学生の感想

また、お参りに来る皆さんが喜んでいただけるようにと境内を整備されているとお聞きして、ご住職や吉祥院のみなさまの清らかな心と熱意に胸をうたれました。またいつか、花々に彩られる吉祥院さまにお参りしたいと思います。
立命館大学 博士課程
吉祥院
〒990-2172 山形県山形市大字千手堂509
〒990-2172 山形県山形市大字千手堂509

人から人へと紡がれてきた
大切な想いや魅力について語り合う
地域で育まれてきた歴史や文化を語り合い、
新しい価値と出会います