葛城修験の聖地の一つであり紅葉の名所として名高い「大威徳寺」を訪ねる
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いろり端

探訪「1200年の魅力交流」

葛城修験の聖地の一つであり紅葉の名所として名高い「大威徳寺」を訪ねる

大阪府南部、和歌山県との府県境付近に位置する大威徳寺は、葛城修験の修行を行う場所の一つである第10番経塚のある寺院です。現在も修験者の方々がこの地を訪れ、修行を行っている場となっております。またこのお寺は、江戸時代から続く紅葉の名所で、多くの参拝の方が訪れます。紅葉の綺麗な12月初めに大威徳寺を訪問させていただき、ご住職である吉川博之師にご案内いただきました。

役行者により大威徳寺の歴史がはじまる

「ようこそお参り下さいました。私が大威徳寺の住職を務めております吉川博之と申します。よろしくお願いします。」

「大威徳寺は修験道の開祖であります、役行者によって開創された古い寺院でありまして、その後弘法大師空海らもこの地で修行を行いました。本堂の奥に川が流れておりまして、そこに滝があります。その滝は手前から一の滝、二の滝、三の滝と続いておりまして、昔は四十八の滝が続いていたといわれています。平安時代の嘉祥3年(850)に比叡山の僧でありました恵亮和尚という方が訪れ、この地で大威徳法という法要をなされました。そうすると三の滝から牛に乗った姿の大威徳明王が現れ、そのお姿を彫刻で表し、ご本尊として納めてこの大威徳寺というお寺ができたといわれています。空海がこの地で修行を行っていたことも合わせ、天台宗と真言宗の兼学の寺院でしたが、現在は天台宗の寺院として管理をさせていただいております。」

大威徳寺の本尊 大威徳明王

「大威徳寺の本尊である大威徳明王は、牛に乗り6つの顔・6本の手足がある異形の姿の仏さまです。この姿からもわかるようにすごく強い仏さまで、戦時中には、戦勝祈願等のためにお参りに来られていたという記録も残っています。ご開帳は、3月25日、8月25日に行われる大法要のときと、お正月の1月1日、紅葉祭りの日の年間4日間になります。秘仏である為ご開帳の際もご本尊さまの前には布が掛かり、直接拝観することはできません。」

今回、特別にご本尊さまの近くでそのお姿を拝させていただきました。

「大威徳明王さまは、水牛に乗った仏さまであるといわれているのですが、このお寺の牛は、どちらかというと和牛に近い穏やかな表情をしています。昔は畑を耕すのにも牛を使っていたことから、農業に関わる人々からの篤い信仰がありました。その当時の3月25日、8月25日の年に2回の大法会には自分が飼っている自慢の牛を連れてお参りしたと伝えられています。」
「ご本尊さまの脇には、牛滝講で信仰されていた大威徳明王像をおまつりしています。奈良や和歌山の遠方で簡単にはお参りできない信者さんたちがそれぞれの地域で集まり、ご本尊さまの分身をおまつりし、お参りをしていた集団を牛滝講といいます。現在ではその講の存続が難しくなり分身の仏さまがお戻りになられこちらでおまつりしています。」

地形や信仰に沿った変わった伽藍配置

「本堂は延宝4年(1676)に建て替えられたお堂で、平成元年に解体修理が行われ現在に至っております。山門から境内に入っていただくと、鐘楼、多宝塔、本堂と続く配置となり、本堂正面が参道とは反対の谷側を向くという変わった配置をしています。これはご本尊さまが出現された滝の方を向いているといわれています。また、和歌山や奈良方面から葛城修験の方々等が来られることから参道とは反対向きであるともいわれています。そのため、本堂が谷側を向いている関係上、本堂の前には建物を建てる場所が無く、本堂の背面に多宝塔があるというとても珍しい配置となっています。」

「大威徳寺の山門から本堂の間にある多宝塔が、国の重要文化財に指定されております。昭和50年にこの塔の解体修理を行ったところ、室町時代の永正12年(1515)の年号が書かれたものが発見され、この年にこの塔が創建されたであろうといわれております。また、この解体修理の際に棟札が発見され、そこには約100年単位で大規模な修理がなされ続けてきたことが記録されていました。長い年月、多くの人々が残したいと修理を繰り返してきたからこそ、この塔が残ってきたということが棟札からもわかるのです。」

葛城修験のお寺としての大威徳寺

「このお寺は、葛城修験という修験道の行者が修行するためのお寺でもあります。修験道の開祖であります役行者は、法華経の章の数である28品にちなみ、28か所にそれぞれ1品ずつ法華経を納めたと伝わります。納めたと伝わる場所は、和歌山県の友が島から大阪、奈良を通って奈良県の亀の瀬まで続く広い範囲の中にあり、葛城修験ではそのお経が納められた経塚という場所を巡って修行を行います。その中で、この大威徳寺にある経塚は第10番目の経塚です。」

「大威徳寺のお経が納められたとされる場所は、山門を入ってすぐの階段を少し上がった右手の大きな石のところになります。分かりにくいのですが、その石には梵字も彫られていています。葛城修験は令和2年に日本遺産の認定も受けています。」

「現在も葛城修験の経塚を回峰される方がおられ、経塚にはたくさんのお札が納められています。」

江戸時代からの紅葉の名所

12月初めの今日は、地面に落ちた葉で紅葉の絨毯が広がりながらも、まだ少し紅葉が残っています。

「このお寺は昔から紅葉の名所として有名で、江戸時代の書物の『和泉名所図絵』には、牛滝山への紅葉狩りと書かれるほど、古くから多くの方がこの地を訪れていたようです。今年は暖冬の影響からか今も紅葉が見頃ですが、例年11月23日に紅葉祭りを行っており、その頃が一番の見頃となります。」

「本堂から山の方に進むと一の滝、二の滝、三の滝と続き、吊り橋を渡ると錦流の滝が見えます。本堂から100mほどの距離ですので、大威徳寺へお参りに来られたときには、是非そちらも散策してみてください。」

滝に足を運ぶと、本堂からほど近い場所に大きな滝がありました。東に進むと大小多くの滝があり、自然に囲まれる空間で癒されました。ここにある滝から大威徳明王が現れたことを思うと感慨深くなりました。二の滝、三の滝は、遊歩道から見て下の方に当たるので、見逃さないよう注目が必要です。

参加学生の感想

葛城修験の第10経塚として、役行者に創建されて以来の歴史を守るお寺として、様々な場所に修験道の行者が参ったことを示すお札が置かれており、このお寺が葛城修験における重要な寺院であることがひしひしと感じられました。現在もそのような信仰が守られ、現在にまで続いていることに、葛城修験や大威徳寺の信仰の篤さを感じることができました。

境内の紅葉が見頃なとてもきれいな空間で、お寺と合わせその場にいるだけで癒されました。他にも多くの参拝の方がいらしておりましたが、皆さん笑顔でこの大威徳寺の空間を楽しんでいるようでした。江戸時代から続く紅葉の名所として現在に至り多くの人々が笑顔になる空間であり、修験道としての信仰とともに空間としても多くの人々に癒しを与えているのだと感じました。

(文・奈良大学 博士前期1年)
大威徳寺
〒596-0114 大阪府岸和田市大沢町1187