修理を経てもなお、中世の趣を漂わせる「如意寺」を訪ねる
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探訪「1200年の魅力交流」

修理を経てもなお、中世の趣を漂わせる「如意寺」を訪ねる

 京の都から少し離れた現在の神戸市西区の丘陵地に、如意寺という中世建築の博物館ともいえるお寺があります。大化元年(645年)に法道仙人によって創建されたこのお寺は、孝徳天皇の勅願寺として定められ、後に慈覚大師円仁によって文殊堂、常行堂が造られました。江戸後期に描かれた『播州名所巡覧絵図』に載っている如意寺とほぼ同じ配置で現存している境内を、宇代隆信ご住職にご案内いただきました。

如意寺の本堂

「実は如意寺の本堂は、今みなさんがおられる北側に平地があると思いますが、そちらにありました。本堂の痕跡として少し盛り上がった部分に本堂の柱を支えていた礎石が今も残っています。
本堂は、天文8年(1538年)により焼失しましたが、一条院泉範が広く寄付を募り再建したことが残っています。」
「最後に建てられた本堂は幕末に再建された建物で、正面が七間が奥行きが七間の大本堂は、当時のこの地域の中心的な存在だったといわれています。」

「その後、老朽化が激しかったことから第二次大戦後に解体され、本堂の部材を売り境内の他の建築の修復にあてたようですね。」

阿弥陀堂(常行堂)

「中世の寺院の境内には、本堂、三重塔、阿弥陀堂、文殊堂等が配置されることが多く、如意寺もその一つになります。如意寺は戦乱を逃れたことから、中世にさかのぼる三重塔、阿弥陀堂(常行堂)、文殊堂が現存する国の重要文化財に指定されています。」
「阿弥陀堂(常行堂)は住宅風の建物です。室町時代の修理で全く違う形になっていましたが、平安後期に建てられた当初のままの形に復元修理され、神戸市内では最も古い建物となっています。」

「堂内は板敷で、折上小組格天井が建物内を彩る。応永13年(1406)、寛文12年(1672)に大幅な改修が施されましたが、近年修復され建立当初の姿によみがえりました。建物の部材には建立当初の部材が残されており、現在も現役で建物を支えています。」
「阿弥陀堂の中央におまつりされている阿弥陀如来坐像は、建物の建立と同じ時期に造立されたお像であると考えられていて、お像の大部分は当初の部分が残っています。近年修復が行われ、台座の裳懸座(もかけざ)や光背はその時に補われました。」

「現在は神戸市の文化財に指定されています。」

文殊堂

「文殊堂は聖僧文殊菩薩を本尊として安置しています。昭和の解体修理ではこのお堂の用途がはっきりしておらず、拝殿として修理がされたという背景があります。この建物は懸造りで、大きさは4分の1ではあるものの延暦寺横川中堂と同じ懸造りです。」

仁王門

市指定の歴史的建造物である門の中に安置されているのは、仁王像は鎌倉時代の塑像です。

「修理をする際に、もし木彫だったらその彫りやすい形に理想化された姿になりますが、この塑像の仁王像は粘土でできていて根本修理ができないために、当時の人の感性がそのまま残っている。それがすごいところなのです。」

文化財を残すということ

「千年近く残すというのはどういうことなのか。途中どんどん手を入れているから残っている、それしか方法がなかったから残っているわけです。経済の中で、生き残れなかったお寺はなくなっていきます。
天台宗のお寺もそうですけども、お寺というのは一度作ったらそれで終わりではありません。屋根は特に50年おきに修理やメンテナンスをし続けないと残らないものです。
逆にこれ以上にお金があれば、今度は新しいものをどんどん作っていくので、全く別のものになってしまうこともあります。」

「ではどうして如意寺は、当初のまま残すことができているのか、実は単に掃除しているだけなのです。
平安時代の比叡山、天台宗の関わりのあったその時代当初のものが一番良かった。それが感動を与えて、その地域の人に残す意味を与えた。そのために地道な努力がそのままの姿を残していったというわけなのです。

明治以降の文化財としての価値観になる前はお寺の価値観の中心は仏さんでした。何時代のものかというよりも、ここにあるという存在そのものが価値観だったのです。これは昔からお祀りされているから大事なのだと、それで残ってきた。
後世に残すには、今の価値観が絶対ではありません。ただものをいっぱい並べて、置いておくだけではなくて、その価値をずっと大切に使い続けていくことが大切です。
価値あるものはどんな形であっても残っていく可能性があるということを覚えておいてください。」

参加学生の感想

お寺巡りに参加するたびに、これからの時代は今までよりも地域の人に残していく価値を理解させたり、意味を与えたりしていくのが難しくなっていくのではないかと思っていました。そんなことも考えながらとにかく平安後期の様式を残した常行堂に入ってみると、その様式の美しさに驚愕したのと同時に、これは残していかなければならないと本能的に感じました。今残っている歴史的建造物は人じゃなくて建物が訴えてくるのだなと感じました。
現状を保つために保管されている文化財と現役で本来の活躍している文化財、どちらのほうが良いだとかどちらも正しいだとかの答えは出せないけれど、全部が全部後世に残すことができるわけではないことを理解して、本当に大事なものを大切にしていく、そのために今できることを考えて実行していくべきだと思いました。

(文・奈良大学 4年)
如意寺
〒651-2237兵庫県神戸市西区櫨谷町谷口259