姫路城がある姫山に創建。今も先人の供養に努める「正明寺」を訪ねる
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探訪「1200年の魅力交流」

姫路城がある姫山に創建。今も先人の供養に努める「正明寺」を訪ねる

兵庫県姫路市の姫路城東400メートルに位置する「正明寺」は、正覚坊道邃によって開かれた、阿弥陀様をご本尊とするお寺です。今回は法嗣の小林恵俊さんに正明寺をご案内いただくと共に、小林恵俊さんの取組についてもお話しいただきました。

正明寺のあるまちについて

「今の正明寺は、姫路城の中堀より外で、外堀より内側にあります。ですのでここは城下町であり、寺町にあるお寺になります。地図を見ていただくとこの辺りはお寺が多い地域になっていますが、それには防衛の意味があります。正明寺の向かい側に7カ寺が並んでいます。
その7つのお寺は日蓮宗で、正明寺だけが天台宗なので少し肩身が狭いような気がしますが、天台宗と日蓮宗では共通点があり、それは根本の大切なお経が法華経であることです。」

「寺町にあるお寺なので、これを見てください!と言いたいのですが、”もの”としては残っていません。」

「正明寺には、梵鐘がありません。実は太平洋戦争で、金属の徴収があり、梵鐘を出してしまったからです。また、この辺りは戦争の空襲で一帯が激しく焼けたそうです。そのため、正明寺には、建築物や仏像等、目に見える歴史あるものが残すことができなかったということです。
この周りの7カ寺のうち梵鐘があるのは1カ寺ですから、太平洋戦争の影響が大きかった地域であることが分かりますね。」

「このお寺の本尊は阿弥陀如来様で、檀信徒の方にご寄進頂いた仏像になります。
 今は秘仏としてお厨子の中に祀っています。歴史的価値のあるものではありませんが、戦争で焼失した中で復興を祈る多くの人たちの思いで今がある、そんな仏様なんです。
 御本尊の前にはお前立として如意輪観音をお祀りしています。」

正明寺(旧:称名寺)の歴史 

「正明寺は康治2年(1143)、現在の姫路市北方にある天台宗のお寺・随願寺(ずいがんじ)の僧侶であった正覚坊道邃(しょうがくぼうどうずい)が、現在の姫路城がある姫山に創建しました。
当初は、姫道山称名寺(きどうさんしょうみょうじ)と呼ばれていました。称名寺の「称名」とは、仏や菩薩の名前を唱えることです。念仏道場として建てられました。特に、阿弥陀如来の名前を『南無阿弥陀仏』と唱えます。」

「正平元年(1346)、赤松貞範(さだのり)が姫山に砦(とりで)を整備するために城下に移転、続いて永禄年間には黒田職隆(くろだもとたか)による築城のため青見川の付近に移転しました。さらに、慶長年間に池田輝政(いけだてるまさ)により行われた現在の姫路城築城の際に現在の地に整備された寺町に移転しました。」

姫路城にゆかりがあるお寺  ~犠牲の上で城がある”供養“の意味を考える~

「私は年に三回、姫路城の供養に行きます。姫路城は昭和の時に大規模な改修があり、そのときに石垣を修理したそうですが、そこからお墓や石仏の石が沢山でてきたそうです。」

「やはり称名寺がその場所にあって、砦を建てる際に、称名寺にあったお墓や石仏の石をそのまま石垣の石に使っているということのようですね。そんな大切な石に対して感謝の気持ちを込めて、姫路城では出てきた石を使って、五輪塔を建てられたそうです。その五輪塔の供養の為に、年に3回行かせて頂いています。
大規模な建築物を建てることは大変なことで、それは目に見えない犠牲の上で作られています。そういった多くの犠牲を伴いながら、あれだけ大きくて後世にのこるお城があるということを忘れないことが大切ですね。
この供養は、時代の変遷で我慢を強いられ、犠牲となった方々への感謝を忘れないために姫路城の維持保全に努める団体が主催されています。正明寺はこういった姫路城に深いゆかりがあるお寺なんです。」
この後は、小林恵俊さんが取り組まれているInstagramやYouTubeやTikTokを通じた、短い法話の動画配信についてお話をお聞きしました。
『サメの説法』はとても有名で、仏教についてとても分かりやすく配信されています。

仏教の法話のNo.1を決定するH1法話グランプリ

「H1法話グランプリとは、来場者と審査員の投票によって「もう一度会いたいお坊さん」No.1を決める大会です。 2年に1回、法話を披露し、超宗派の若手が集まり10分以内に法話を披露するこの企画は6年目を迎えます。審査員や参加者の皆さんの投票を集計し、登壇した僧侶の中から、グランプリを決定します。」

「いろんなご意見がありますよ。」
「こんな声もあります…。」
「法話で争いごとをするなんて間違っているのでは…とか。審査するってどうなの・・とか。法話に優劣をつけるようにうつってしまいますが、あくまでもそれぞれの主観で良いのです。」

「関わるようになったきっかけは、周りに温かく、サポートしてくださる方がいて、そのおかげで一歩踏み出すことができました。周囲の方々がいたからこそ、道が開かれました。」

学生:伝教大師最澄さんはどんな人と思われますか?
「私は天台大師の理解に魅力を感じていて、天台宗の礎であります。その教えを伝えてくれた伝教大師にはとても感謝しております。
伝教大師は後世に繋いでいくことを大切にされていたと思います。
これからの未来の流れとして、新しいものを作っていくことも重要ですが、今あるものをどのように守り、継承していくのかにも焦点が当てられると思います。
伝教大師のように、多様性を大切にして継承することに重きを置かれる人もいて時代が継承されるのだと思います。」
学生:一番好きな言葉は?
-天台大師のお言葉「凡夫の一念に十界を具す」
「みんなの中に尊い面もあれば汚い面もありますね。人はそれぞれ自分の中に個性という性格を持っています。みんなが仏様みたいになるときもあれば、みんなが地獄のような恨みにとらわれることもあり、こうして人は行ったり来たりするのです。でも全ての人が幸せを願っておられるという意味ですね」

このお言葉を聞いて、こういった人には多面があることを前提としていれば、相手の言葉を落ち着いて受け止めることができるし、自分自身を見つめるときも落ち着いて振り替えられる。つまり本質を見極めることにつながると感じました。
忙しい現代社会の中、「自分を大切に優しくすることから始めよう」の原点はこれを理解していることなのだと思いました。
何事も捉え方次第で見方が変わる。「人は仏になれる」と言われるように、自分次第で可能性は変わるというメッセージを感じることができました。
最後に、庭にあった板碑を紹介してくださいました。
称名寺を姫山城から移転した理由が書かれていました。

正平元年の移転の際に造立され移転の由来が記されている板碑(兵庫県指定文化財)が1876年に姫路城で発掘され、境内に安置されていました。

参加学生の感想

美しい山々に囲まれた景色が見え、道中も癒される風景がありました。空襲が激しく、歴史的に価値があるものというより色々な人が助け合ってできたことが印象的でした。
正明寺に訪問し、対話を通じて理解を深めることができる素晴らしさを感じました。
小林恵俊さんの温かいお人柄から、様々な視点を受け入れる姿勢を思い出させてくださいました。
H1グランプリや伝教大師最澄さんのお話では、多様性を大切にされており現代の流れと重なりました。
余談ですが、小林恵俊さんが執筆された「さらりと生きてみる」書籍や、Youtubeでは、自分自身にとって身近でなかった天台小止観をわかりやすく話されていて、難しい概念を日常的な言葉で、聞く人が自然と引き込まれるような魅力がありました。人に対して温かさや安心感を与えられる人になりたいと思いました。


(文・龍谷大学農学部3年)
正明寺
〒670-0854 兵庫県姫路市五軒邸2-88

僧侶えしゅんのサメに説法
https://www.youtube.com/channel/UCQkZuC9qSb3WWfJxmZS1rKw