無住からの復興が進む常住寺を訪ねる(その2)
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探訪「1200年の魅力交流」

無住からの復興が進む常住寺を訪ねる(その2)

2022年12月10日 訪問
天台宗の高僧、葉上照澄師が長年住職を務めた金剛山常住寺。一時期無住状態となり荒廃してしまった境内の復興が進んでいます。

引き続き、天台宗岡山教区宗務所長であり、代表役員代務者として復興に尽力されている永宗幸信師にお話を伺いました。

三千佛堂

「こちらが本堂移築百年記念事業として建立された『三千佛堂』です。さっそく中へどうぞ。」三方の壁面に仏様が立ち並び、入った瞬間から圧巻の空間です。
「三千の仏様の前ですべての名前が含まれたお経を唱えながら祈りを繰り返す、『三千仏礼拝行』という行があります。元々は1日3000回を1週間繰り返すという行でしたが、現在は3日に分けて行われます。実際に3000体の仏像が一堂に会する場所はほとんどありません。比叡山での『三千仏礼拝行』は仏様の掛け軸の前で行われていることを思えば、いかに珍しいかということです。そこでお寺の特色になればと、仏像を3000体作って安置するお堂の建立を考えました。」

3000もの仏像を集めるのは容易ではありません。
「岡山県奈義町で四代続く工房に制作を依頼したところ、3代目と4代目のお2人で約10か月かけて作ってくださいました。仏像一体ずつ木の節の出方も顔も異なっているのがこだわりで、魅力のひとつでもありますね。ちなみに『叩き彫』という名称は、工房の初代が縁のあった棟方志功さんに名付けてもらったのだそうです。」

近づくと、一体一体の表情や造りが違い、温かみも感じられます。

「このお堂がある場所は、かつて観音堂・お稲荷さん・山王社があったため、観音、狐、猿の像を祀っています。釈迦・薬師・阿弥陀の三体仏を含めて、合計で3006体の仏像が安置されています。今日、皆さんは本堂と合わせてこのお寺で5000体以上の仏像にお会いしたことになりますね。」
「3000体の仏像が並んでいるだけの場所ではないですよ。照明は少しずつ変化させて違った印象を作り出し、多様な使い方ができます。音響も考えられた凝った造りのお堂なんです。ちょっと試してみましょう。そこに寝転んでいいですよ。」と、照明を落とし音響を操作します。

仏像のお姿だけが浮かび上がる照明の中、声明とグレゴリオ聖歌のコラボレーションを聴きながら身体を横たえるという、これまでのお寺巡りになかった体験をしました。

「復興のための一助として、仏像一体2万円の一般寄付を募っています。寄付してくださった方のお名前はプレートにして仏像の前に掲げています。当初は上の段から順に付けていたのですが、最近は気に入った「マイ仏」を選んでいただいています。それだけで、三千人の方の想いをこのお堂に込めることができますね。」
「このお堂の設計も施工も檀家の方です。また、アルバイトの高校生が仏様を一体ずつ並べてくれました。『三千神仏安寶堂』というお堂の正式名称を命名し、書にしてくださったのは黒住教の第七代黒住宗道教主です。仏像の材料となっている木は、比叡山延暦寺をはじめ、岡山・京都・兵庫などの寺社仏閣にお願いして集めてきました。」

「そうして様々な人たちの手によって作り上げられ、そこに携わった方々の想いを集める特別な空間ができたかな、と思っています。」

「復興に取り組み始めた当初、元町内会長の方と近隣に在住の方、隣の敷地を管理する方の3人には特に尽力していただき、その方々を想って3本の桜を植樹しました。また、毎年3月6日の行事に協力してくださっていた造り酒屋のご主人が亡くなられた際には、特に檀家さんというわけではありませんでしたが、その位牌を作り祀っています。このように復興をきっかけとしてつながりができてきた方々との縁を大切にしているんです。」

ここで出してきていただいたのが、若手僧侶によるオリジナルのストーリーと協力者によるイラストで作成された紙芝居。この活動の中心となっている長谷川裕展師(常楽寺副住職)にも加わっていただき、説明をお聞きしました。

「復興活動の一つとして、日本の五節句をわかりやすく絵で伝える紙芝居を6作品作成しました。年越しとはどういった意味を持つかとか、七草がゆをなぜ食べるか、七夕って節句なの?といった内容の紙芝居の読み聞かせイベントを、近隣の幼稚園の子どもや保護者対象に実施しました。さらに、紙芝居に登場する食べ物をキッチンカーで用意して味わってもらうなどの工夫もしています。紙芝居の内容を体感し、お寺の空間で楽しい体験をしてもらう。子どもたちがいつかその体験を思い出してくれるといいですよね。」


また、三千佛堂ではこれまで、音楽のコンサート、若手僧侶の研修会、諸宗教の集いなどを開催してきました。「Play&Prayの場所」になっています。

老若男女が集い、それぞれの想いをそれぞれのやり方で形にする。そのための場所としてこれまでもお寺がつながれてきたのかもしれません。

客殿

最後にご案内いただいたのは客殿として使われている2階建ての建物です。
「1階の祭壇には、徳川家の将軍や葉上師をはじめ、歴代住職の位牌が祀られています。お寺は祈りが大切なので、建物を復興するだけでなく、荒廃していた中から取り出した位牌をこうしてきちんと祀ることも大事な復興の一つとして行ってきました。」
「J3スタジオ」にて訪問学生と

つづいて、2階に上がります。
「お寺らしくないと思われるかもしれませんが、常設のスタジオを作りました。かつて地域のFMラジオで黒住教の教主とのトーク番組を月1回、1年間行っていたことがありました。それが終わってからはYouTubeやツイキャス、Facebookといったツールを使い、もっと広く世界中に向けて発信をしています。不定期で三千佛堂から配信することもありますよ。アカウントはたくさん持っていますがそれぞれを使い分けて、少しでも多くの方に興味を持っていただき、少しでもみなさんに近づけるように情報を発信しています。」
「私の代務者としての任期が終わった後も、多くの方が参拝に訪れてくれてお寺が安定して運営していけるよう、毎月限定の御朱印作成など様々な施策を考え、実行しています。」という永宗師のお言葉の通り、長谷川師も復興活動に尽力され、紙芝居以外にも、岡山教区研修資料としてSDGsと伝教大師の言葉をつなぎあわせた『伝教大師のお言葉とSDGs』を作成するなどご活躍されています。

地域の方々の協力により、小さな子どもからお寺を訪れる方、またその先の全世界の方々に向けて、様々な活動と情報発信を行っている常住寺。復興への多くの想いに触れ、自分たちができることでその輪を広げていきたいと感じる訪問でした。

参加大学生の感想

個人的にはこれまで巡ってきたお寺の中で、常住寺のように何度か移転を経験したお寺というのは初めて訪問しました。場所を移してまでお寺を存続させる意味は何だろうという疑問を持っていたのですが、永宗師のお話を伺い、残すべきお寺には残すべき理由があるということが分かりました。
勉強不足で葉上照澄さんのことを私は存じ上げませんでした。顕彰碑・賛文を読むと、世界連邦日本宗教委員会をつくったり、比叡山宗教サミットを立ち上げられたり、葉上大阿闍梨の思いが書かれてあって、偉大な方であったとわかりました。正直どれくらいすごい方だったか想像を超えていて、本当の理解にはなっていないかもしれません。これから比叡山・天台宗についてもっと勉強して葉上大阿闍梨に感謝していきたいと思います。

 常住寺で印象に残っている場所は三千佛堂である。一つ一つ違うお顔、違う大きさの仏様で、何より違う名前がそれぞれにつけられていたことに驚いた。お寺であそこまでくつろぐことができる場所が他にあるだろうかと思った。他にも本堂にはFacebookの投稿画面のボードなどがあり、それを永宗師は「こんなことして遊んでいます」などとおっしゃられていたが、常住寺を守っていくため、みんなに知ってもらうために新しいことを取り入れていく姿勢に感銘を受けた。お寺を離れる時に、今の自分がやれることは全部やろうという気持ちを持った。
常住寺
〒703-8273  岡山県岡山市中区門田文化町2-7-19