「おみくじ発祥の地」が比叡山延暦寺に! 1,000年以上前の形式を今なお残す
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「おみくじ発祥の地」が比叡山延暦寺に!
1,000年以上前の形式を今なお残す

日本各地のお寺や神社で引くことができる「おみくじ」ですが、その発祥の地が比叡山延暦寺にあると言われていることをご存知でしょうか? 比叡山延暦寺は、山全体が天台宗の修行の場所であり、その広大な寺域を3つの地域に大別し、東を「東塔(とうどう)」、西を「西塔(さいとう)」、北を「横川(よかわ)」と言います。その一つの寺域「横川」におみくじ発祥の地として知られる「元三大師堂(がんざんだいしどう)」があります。比叡山内でも最も北に位置するエリアで、「元三大師堂」はかつて元三大師様の住房があったところ。今回は、比叡山延暦寺 横川 元三大師堂 當執事(とうしゅじ)の渡邊惠淳さんにおみくじ発祥の地となった理由や元三大師様についてお伺いしました。

-「元三大師堂」について教えてください

お堂の説明をする前に、元三大師様についてお話をします。一月三日に亡くなられたことから通称として元三大師と呼ばれていますが、お名前は良源(912~985年)と言います。良源様は、平安時代の天台宗の僧侶で、比叡山延暦寺の中興の祖として知られています。良源様はたいへん法力が強く、如意輪観音様、またはお不動様の化身とも言われ、霊験あらたかなお話がたくさん残っています。厄除けの「角(つの)大師」や「豆大師」、「降魔(ごうま)大師」という呼称は、そのような霊験あらたかなお話とともに生まれた良源様の別称になります。
その元三大師様をご本尊としてお祀りしているのが、ここ元三大師堂であり、元三大師様が住房として修業に、学問の研鑚に努められたお堂です。
元三大師様は、平安時代に活躍した方になりますが、そのお力は当時も、そして1,000年以上経つ今の世においても私たちを導いてくださったり、また、守ってくださったり、それぞれの願いにお力を授けてくださっています。

元三大師堂の前にある碑。碑に記載されている絵は「角大師」。夜叉の形相をかたどり、2本の角が生えている。
「角大師」の御札は魔除けとして、門口にはったり、また害虫除けに竹などに挟んで田のあぜなどに立てたりされている。

-「元三大師堂」は、おみくじ発祥の地と言われていますが、どのような事からでしょうか

元三大師様が観音菩薩様に祈念し授かった、五言四句の偈文(げもん)百枚がおみくじの原型だと言われています。偈文とは、観音菩薩様のお言葉です。元三大師様は百枚の偈文の中から引いた一枚に進むべき道を読み取り、数多くの人を迷いから救ってきたとされています。しかし、元三大師様がおみくじの元祖と言われるようになるのは、江戸時代のはじめ。徳川家三代にわたり仕えた慈眼(じげん)大師天海様が、元三大師様の夢のお告げにより、信州にある戸隠(とがくし)神社で偈文百枚を発見されたことに始まります。これが「元三大師百籤(ひゃくせん)」となり、番号と五言四句の偈文により、的確な指針を得られたことで広まっていきます。次第に天台宗以外でも使われるようになり、現在のお寺や神社で引くおみくじは、元三大師様の偈文百枚がもとになっていると言われています。

-「元三大師堂」では、どのようにおみくじを引くのでしょうか

まず、ご予約されたお時間にお越しいただき、相談したい迷いや悩み事を詳しく紙に書いていただきます。その内容をもとに面談し、おみくじを引いたほうが良いかどうかを判断させていただきます。引くと決まれば、お経を唱え、私たちがおみくじを引きます。その後、お部屋でおみくじの内容、いわゆるお大師様のお答えを解説いたします。
このおみくじは将来を予言するものでも、吉凶を占うものでも、また、ご自身の決意を後押しするものでもございません。どちらの方向へ進むべきか自分では判断できないという人生の岐路に立たれた時に、お大師様に決めていただくというものです。

-いただいたおみくじはどのようにすればよいのでしょうか

こちらでお渡しするおみくじには、アドバイスが書かれています。すぐにそれに従いなさいという事ではなく、お持ちになり時々見返していただくのがよろしいのではないでしょうか。

おみくじを引かれた方から後日、迷いや悩み事が解決したお礼として、元三大師様へのお供え物が届く。
たくさんあるお供え物からも、迷いや悩み事が無事に解決し、元三大師様への感謝の気持ちが高いことを物語っている。

-ご相談を受けられる時に気を付けていることは何でしょうか

悩み事の大小は他人が決めることではありません。ご本人にとっては、人生を左右するほどの大きな悩みである場合もございます。しっかりとお悩みを聞くこと、そして、先にお話ししましたように、元三大師堂のおみくじは運試しではございませんので、お大師様のお言葉を指針とし、行動基準としていただけるかをご確認させていただくことでしょうか。

-「伝教大師最澄」は、どのような方だと思われますか

控えめでありながらも、お亡くなりになられる時に弟子たちに“我が志を述べよ(私の志を後世まで伝えなさい)”とおっしゃられた。仏教に対して熱い思いをお持ち方だと思います。また、日本の国が平和で、みんなが幸せに暮らせるのであれば、天台宗だけではなくいろんな宗派や宗教があっていいと、それぞれ人に合う幸せになれる方法を望まれた、とてもお心の温かい方だと思います。

―取材を終えて
「元三大師堂」のおみくじは自身で引くおみくじではなく、當執事に引いていただくという、1,000年以上前に行われていた当時の形式を今もなお踏襲されています。慈眼大師天海が夢のお告げにより発見しなければ「おみくじ」は日本の文化として、日常の一部として残っていなかったかもしれません。また、今回お話しをお伺いした渡邊當執事をはじめ、「元三大師堂」でお勤めをされる僧侶たちが当時の形式を守り、伝承・継承してこなければ、その源流に出合えることはなかったかもしれません。どのような事や物にも始まりがあり、それを伝えて行く人たちがいます。今、私たちの周囲にある物や事は簡素化され、便利ではありますが、そのもの自体のルーツや意味、そこに込められた思いなどを考えてみるのも楽しいかもしれません。
「元三大師堂」のおみくじは誰でも引けるものではありませんが、年頭に限り誰もが引ける「年みくじ」を行っているそうです。内容にしっかり目を通し、1年の指針にしてみてはいかがでしょう。