水路の音響く街で、人と神との橋渡しを務める矢頭さんと談をとる
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いろり端

探訪「1200年の魅力交流」

水路の音響く街で、
人と神との橋渡しを務める矢頭さんと談をとる

今回談をとるのは、およそ2100年以上もの歴史ある日吉大社で禰宜(ねぎ)を務めていらっしゃる矢頭英征(やずひでゆき)さん。
お伺いしたのは4月12日~14日に行われる日吉大社のお祭り「山王祭」を目前に控えた大忙しの日でした。桓武天皇が日吉大社にお神輿をご寄進されてから1200年以上の歴史を有する山王祭と、神職というお仕事や坂本の町についてお聞きしました。

天下泰平や五穀豊穣を お祈りする・1200年の 歴史ある坂本の山王祭

ー 山王祭ついて教えてください。

山王祭のお話の前に日吉大社にもふれておきます。
全国には、日吉神社は約3800社あります。名前はそれぞれまちまちで、日吉神社、日枝神社、山王神社などがあります。他にもたくさん名称があり、日吉大社はそれらの総本宮であるということです。
日吉の祭りは山王祭という名称が多く、有名なところでいうと、東京の赤坂・永田町の日枝神社の祭りも、大江戸三大祭の一つ山王祭です。日吉山王祭ということもありますが、山王祭というのは、日吉の神社で行われるお祭りのことをいいます。

ー 山王祭の由来はなんでしょうか?

1年に1回この日に大きなお祭りをしようと決めたお祭りのことを例祭といいます。この時は1年に1度の大事なお祭りということで、神様をお称えします。
私たち神職は、日ごと、月ごと、年ごとにいろんなお祭りをご奉仕していますが、一番の目的は、神様に若返りを図っていただくことです。毎日のお祭りでは毎日若返っていただく、月ごとのお祭りでは月1回もっと若返っていただく、年に1回のお祭り、つまり例祭では神様は目には見えませんが、その御霊が瑞々しく若返っていただく、その力で私たちはご加護をいただきます。
日吉大社の山王祭は、4月12日から14日、3日間にかけて行われます。お祭りでは、境内にある西本宮と東本宮、2つの御本宮の神様が、どのように今のお社にお鎮まりになられたかをお神輿を使って再現をするものです。
こうすることで、神様にお祀りされた当初の気持ちに戻っていただき、その瑞々しいお力をもって“天下泰平”や“五穀豊穣”をお祈りする。これが、坂本の山王祭の一番の目的であり趣旨です。

1200年間、坂本の人々が 大切に伝承する「坂本の祭り」

ー 坂本の人たちにとって山王祭はどういったお祭でしょうか?

昔も今も変わらず、日吉大社の例祭であっても、坂本の人々にとっては坂本のお祭りと思っている方が多いと思います。
神社は地域の振興のため、地域の方々が祈り集うための場所ですから、そのお祭りの場所が神社であるということだと思います。
日ごとの神事は私たちがご奉仕していますが、特に山王祭については、私たちがお手伝いをさせていただいているような感覚になるほど、主役は坂本の町衆の方たちだと考えています。

ー 坂本の人たちはどのようにかかわっていますか?

お神輿を担ぐ方、駕輿丁(かよちょう)というのですが、古くより坂本の町衆の方たちに担いでいただいています。
ただ昔は延暦寺さんの公人(くにん)と言われる方たちが取り仕切っていましたが、明治に入って、神仏分離ということになり、その頃からは、神社が中心となって差配するようになりました。
お神輿は全部で7基あり、山王七社と言って主要な大きいお社は七社あり、一社に一基あります。

10万人がこられる、 坂本の人々が伝承する 躍動の3日間

ー どのように告知されていますか?

広報活動は限られた予算の中でしかできないのですが、滋賀県や大津市などの協力を頂いており、4月12~14日の3日間で10万人の方がお越しになります。やはりネームバリューはあると思います。湖国三大祭りの一つであることもあり県外からも多くの方が来られています。
また、自分の氏神さまが日吉神社という方にとっては、本宮のお祭りは見てみたいと思われる方も多いようですし、お神輿を担ぐ人たちにとっては、山王祭はとてもステイタスが高いようで、本場のお神輿を見に来くるという交流もあります。

ー 一般の方々に山王祭をどのように見ていただきたいですか?

来られた方みなさん「魂が揺さぶられる」と感じるはずです。
特に4月12日に山上から麓へ神輿が渡る神事は神遷しの儀として本来は秘儀とされるものですし、4月13日は神様が生まれる瞬間を儀式として行うのでいずれも場の雰囲気はピリピリとした繊細な空気に包まれています。
お神輿を担ぐ方も1000キロのお神輿を担ぐわけですから、もちろん命を懸けてやっています。だからその真剣さが見る人には伝わるのです。また神様が最も純粋な状態ということも見る人には伝わります。つまり静と動の両極による空気感や迫力を五感で感じてほしいですね。何百人もの男の人が、自分の命を鼓舞して、絶対神様とお神輿を落とすこと無く、担ぐという高い意識と団結力。それこそが魂を揺さぶる感じです。

静と動、2つの魅力を 持つ坂本の町

ー 坂本の町はどんな町ですか?

山王祭の躍動感ある坂本とはうって変わって、日ごろはとても静かな町です。つまり静と動のオンとオフの切り替えがはっきりしている町だと思います。いつもはオフで静かですが、お山で何かある、日吉大社で何かある、となるとおどろくほど切り替わります。それほど坂本には長く培われた独特な地域性があるのかと思います。

ー 坂本のおすすめできるところはどんなところですか?

坂本は自分の心と向き合える場所だと思うのです。特に坂本の魅力は「静寂」だと思います。
明智光秀さんが作られた、比叡山の山水を引いた水路が街中に流れていて、日吉大社のお宮の周りにもずーっと水路が巡っているんですけども、常にその水の音が聞こえる場所、水が見られる場所というのは、やはり気持ちが清らかになります。町並みを歩くだけでも、石積みを見ながら、緑を目に入れ水の音を聞きながら静かに歩いているだけで、いろんなことを思ったり、思い返したりできる時間だと思うのです。

神職の心構えは 「浄明正直」

ー 神職とはどのようなお仕事ですか?

実は自分は学校の先生になろうと思っていましたが、いろんな人との出会いがあり高校3年生の時に思い立ってこの道を決めました。
神職は、精神世界でもあるのでその世界が合うか合わないかは大切な事だと思います。働き出してからの苦労は想像を超えるものがありました。いろんな悩みを抱えた人が来られて、神様への思いやお願いごとを一度お預かりしてから神様にお伝えすることや、神職は事務などもあり、神様をお守りする上で聖と俗のどちらの意味でも忙しさがあります。

ー 修行もされるのでしょうか?

私たちの仕事は皆さんと神様の仲介役なのです。皆さんの思いを受け取って神様にお伝えする、神様の思いを受け取って皆さんにお伝えする橋渡しの役割が仕事。学生のときから、神様にお仕えする心と身体の状態を作ることを常に意識をせよ、と言われてきました。

「浄明正直(じょうめいしょうじき)」、浄(きよ)く明るく正しく直く、これが神職としての心構えです。常に自然体の状態で物事を客観的に見られないと、皆さんの思いは純粋に受け取れないですし、純粋に神様にお伝えすることもできません。
神様は喋るわけではありませんので、「今、神様はこういうふうに思ってるんだろう」ということに気づくためにも、空っぽの状態を常に作っておかないといけない。そのために修行で水に入って清めたり、神社にこもって俗と少し離れてみたりもします。
必ずやらなくてはいけないときもあれば、自らがやりたい思ってやる場合もあります。自分自身で「今少し足りていない」と思ったら、自身で判断してやる場合もありますね。

ー 最後に、好きな言葉を教えてください。

私のモットーでもあるのですが、「行雲流水」という言葉がとても好きです。
そのときどきの流れに乗ってみることを好んでいます。試練が降り掛かったり、いいことも悪いこともいろいろありますけれども、そこに乗ってみると、見えてくる景色がまた違ってきたりとか、道が拓けたりとかするのです。「行雲流水」とは、そういうことなのですよね。
自分で我を通して道を拓いていく人と、人のいろんな状況を判断しながら自分の場所を見つける人。私は多分、どちらかというと後者だと思うのです。常に神様のことを意識しながら生きている。だからそういう意味でのひらめきというか、神様から教えていただくことは多いのかもしれませんね。

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